【レポート】森本英世が55周年記念ディナーショー。タイガーマスクから「星降る街角」、新曲「東京ナイトバタフライ」までヒット曲のオンパレード。
森本英世が東京・台東区の浅草ビューホテルにて、デビュー55周年を記念したディナーショーを開催。「ありがとう55周年」と題した宴には大勢の観客が訪れ、森本は日本クラウンから発売したばかりの記念シングル「東京ナイトバタフライ」のほか、「敏いとうとハッピー&ブルー」時代のミリオンヒット曲などを届けた。
森本英世ヒットパレード
「タイガーマスクを歌って55周年になります。同じ年に演歌でもデビューしました。そこが歌手としての原点になります」
森本英世は1969年、「新田洋」の芸名で、TVアニメ『タイガーマスク』の主題歌「行け!タイガーマスク」を歌ってデビュー、大ヒットを飛ばした。また同年、「大竜二」として「花街ブルース」をリリース。演歌歌手としてもデビューした。
1971年には現在の森本英世に改名。2年後の1973年にはムード歌謡グループ「敏いとうとハッピー&ブルー」の2代目リードボーカルとして加入。グループを独立するまでの10年間に「わたし祈ってます」「星降る街角」「よせばいいのに」などの大ヒット曲を世に送り出した。
司会を務めたお笑い芸人 こばやしけん太によるアナウンスにより、9月7日夜、「ありがとう55周年 森本英世 55周年記念ディナーショー」が開幕すると、森本英世はハッピー&ブルー時代の「よせばいいのに」「他人じゃないの」を歌唱して登場。独立後の1986年にリリースした「酔恋」へと歌いつないだ。
酔う恋と書いて、“すいれん”と読む。荒木とよひさ氏が作詞し、浜圭介氏が作曲した作品だ。
「あ! この歌好き!」
こんな声が思わず客席から漏れていた。
森本英世、菅野ゆたか(元・森雄二とサザンクロス)、木下あきら(元・秋庭豊とアローナイツ)というムード歌謡コーラスグループのリードボーカルが結集したユニット“ハッピー・サザンアロー”として2002年にリリースした「三つの恋の物語」が披露されると、ディナーショーは最初の山場を迎える。
「55年という長きにわたり森本英世をご支援いただきました。心に残るステージにしたいと張り切っています」
会場は約300名。ぎっしりの観客で埋めつくされていた。森本の55年の歩を感じさせるように、時代・時代に出会った縁の人も駆けつけており、高校時代の同級生までが森本のステージを観ていた。
「昨日は本当に皆さんが来てくださるのか心配していましたが、こんなにもわんさか来てくださいました。本当は森本、ここで泣かなきゃいけないんでしょうけど(笑)。しかし、前列のお客様との距離が近いこと。森本の鼻の穴しか見えないんじゃないでしょうか」
「皆さんのおかげで大ヒットさせていただきました。ウォンチュ!」
森本は続いて大ヒット曲「星降る街角」を披露すると、篭島敏男とのツインボーカルで歌った「恋のキャンドル」、そして、森本がハッピー&ブルーを独立したあと、二見正のボーカルで1985年に発売され、今も人気曲となっている「射手座の女」を届けた。
「今日はお客様の視線が熱いですね。よせばいいのに(笑)」
森本はディナーショー前半の締め括りとして、水木良の作品をカバーした「雪化粧」を選曲した。
同曲は新曲「東京バタフライナイト」の作詩家・水木良が出身地・北海道の大地をイメージして制作、自ら歌った作品。リズムが心地よく、森本が2012年に「こんな俺でも」との両A面ジングルとしてカバーリリースした。
「水木くん、出てきて一緒にやりましょうよ」
客席からディナーショーを楽しんでいた水木をステージに上げた森本は、2人して「雪化粧」を歌唱すると、森本英世応援団に引き継いだ。
森本英世応援団がステージへ
55周年記念ディナーショーには“森本英世応援団”として、森本を崇拝する後輩歌手が駆けつけ、ステージを盛り上げた。
国内外で活動するシンガーソングライターのRili.は「センチメンタル銀座」を力強く披露した。同曲はザ・ピーナッツの育ての親としても知られる歌謡ポップスの第一人者 宮川泰氏の眠っていた作品を、Rili.が歌詞を書き直して令和に蘇らせた作品だ。
ラテンやカンツオーネに魅せられて歌手を目指した川奈ルミは、「コーヒールンバ」で登場すると、「森本さんと同じように55周年を歌うことができたら素晴らしいことだと思います」と感想を述べ、ラテンバラード調の情熱的な最新曲「愛遙かに」を聴かせた。
桜ちかこは名付け親である作曲家・岡千秋氏の作品から「王将一代小春しぐれ(浪曲歌謡篇)」を届けた。森本英世が大阪府出身ということで、大阪を舞台にした作品を選曲したという。また、桜はラジオ番組での共演が縁となって、昨年、歌手人生25周年記念楽曲として配信リリースした木梨憲武プロデュースの「BANYA」も歌唱すると、黒木じゅんにステージをつないだ。
ゲスト応援団の最後に登場した黒木じゅんは、偉大なる父・黒木憲の作品を継承し、ヒット曲「霧にむせぶ夜」を披露した。「なかなか父には追いつけませんが・・・」と吐露した黒木だったが、「霧にむせぶ夜」の作曲家でもあり、師匠の鈴木淳氏が2021年にデビュー30周年記念曲として書き下ろしてくれた「離れても」で締め括った。
森本英世が蝶々に!
新曲発表会を兼ねた森本英世のディナーショー。後半のスタートはもちろんこの曲からだった。
9月4日に発売された水木良の作詞作曲作品「東京ナイトバタフライ」のイントロが流れると、森本は“蝶”をイメージした衣裳でステージに現れた。森本が描いたデザイン画を元にマネージャーが縫製してくれたという。
森本はラテンのリズムに乗せたムード歌謡「東京ナイトバタフライ」を届けると、大きな拍手に包まれた。
「サンキュー! サンキュー! この衣裳、大丈夫だった?」
“カッコいい”と“ダサい”の境目を狙ったという衣裳も好評だった。
演奏で支えてくれた生田目章彦率いる「生田目バンド」を紹介すると、森本は続いてカップリング曲「恋ひと夜」を披露した。同曲は昨年、吉村明紘がデビュー35周年記念シングルとしてリリースした「KAWASAKI」のカップリング曲だ。森本が作曲提供し、吉村が瀬口侑希とデュエットしているが、今回、セルフカバーした形だ。
森本と言えば、やはりタイガーマスクだ。渡辺プロダクションの新人オーディションに合格した森本はスクールメイツでレッスンを積み、1969年、「新田洋」としてTVアニメ主題歌「行け!ターガーマスク」でデビューした。
颯爽とタイガーマスクのマントをまとった森本がヒーローを演じると、いよいよ宴はフィナーレへ。
森本は「夜の銀孤」「黄昏のビギン」「氷雨」「今日でお別れ」といった昭和の名曲をカバーしながら客席をラウンドし、ファンとの交流を楽しんだ。アルバム『昭和ロマンをうたう』からの選曲だった。
客席ラウンドの最後は、敏いとうとハッピー&ブルー時代の1974年にリリースされた「わたし祈ってます」。中川博之氏が“五十嵐悟”名義で作詞作曲したヒット曲をフルコーラスで届けると、エンディング曲には「グッドバイ・マイ・ラヴ」が選ばれた。
オリジナルはサックス・プレイヤーでもある岡崎広志(現・岡田愛詩)が1972年に発表した作品。1978年には敏いとうとハッピー&ブルーがカバーした。
「いよいよ最後の曲となりました。『グッドバイ・マイ・ラヴ』」
こばやしけん太がタイトルをコールすると、「お~」という声も客席から聞こえた。“さよなら あなたが すべてでした”。森本は甘い声で作品を届けると、「ありがとうございました」と語りはじめた。
「皆さんの声援、皆さんの笑顔、皆さんの支えが森本の支えになります。これからも頑張って歌ってまいります」
「今日は普段歌わない曲も披露させていただきます」と語っていた森本英世の55周年記念ディナーショーはヒット曲のオンパレードとなった。
アンコールにもう一度、「東京ナイトバタフライ」が届けられると、観客は手拍子で森本の歌声に応えていた。
「東京~ ナイトバタフライ~♪」
2時間半に及んだ森本のステージを楽しんだ、ある二人組の観客の一人は、ホテルを出ると思わずサビを口ずさんでいた。
「やばい! 耳に残っちゃった!!」
二人は笑い合っていた。
こんなこともありました!
「急に歌詞が出てこなくなっちゃって・・・」
森本英世は新曲「東京ナイトバタフライ」を歌唱したあと、続いてカップリング曲「恋ひと夜」を歌唱していったんステージを降りると、飛び入りで島ゆたかが一曲披露する間にステージ裏でタイガーマスクのマントを着用。再登場すると、デビュー曲「行け!タイガーマスク」を歌って会場を盛り上げる予定だった。
ところが・・・。
「それでは聞いてください。『恋ひと夜』って行こうとしたら、急に歌詞が出てこなくなっちゃって・・・。楽屋で歌詞を確認してまいりました(苦笑)」
しかし、真相を知らない司会者やバンドメンバー、エンジニアなどは森本がいったんステージ袖へ下がったため、「行け!タイガーマスク」の演奏をスタートさせたのだ。だが、イントロが終わってもタイガーマスクは現れなかった。現れたのは“バタフライ”のままの森本だった。
「楽屋から帰ってきましたら、急にタイガーマスクの曲が演奏されまして・・・。このタイガーマスクは誰が歌うんだと? え~、それでは先ほど言っておりました『恋ひと夜』を聞いていただきたいと思います」
とぼける森本に大爆笑となる会場。生の舞台ならでは出来事だったが、森本は気を取り直して「恋ひと夜」を歌唱すると、マネージャーを呼び出し、ステージ上でタイガーマスクへと変身。観客はマントを着用する森本の生着替えを堪能することができ、森本も無事、デビュー曲を高らかに熱唱できた。