
前川清と藤山直美が明治座で公演。2行以上のセリフはNG!? 息もぴったりに人情物語で泣き笑い
前川清と藤山直美が2月18日、東京・中央区の明治座での公演初日を迎え、取材に応じた。
明治座『前川清・藤山直美公演』は3月13日まで約1カ月間行われ、第一部は大阪・道頓堀を舞台にした人情物語「恋の法善寺横丁」、第二部は「前川清オンステージ」で観客を楽しませる。前川は、「(感染対策は万全なので)まずは安心して楽しんでいただいて、そして『ああ、来てよかった』と思ってもらえればうれしい」と話し、藤山は「座席に座っていただいた時点で大阪に来ていただいたような、道頓堀、法善寺横丁の昔の風情を味わっていただけたらと思います」と来場を呼びかけた。

1月の大阪・新歌舞伎座での新春公演に続いて、明治座での舞台に臨む前川清(左)と、藤山直美。
「恋の法善寺横丁」は、法善寺の小料理屋「誠志郎」の女将・辰子(藤山直美)と、かつて辰子の父親・誠志郎から料理の手ほどきを学んだ花板・徳三(前川清)による笑いと涙の物語。時代は明治から昭和初期へと駆け抜け、辰子の亡き父親役の田村亮、法善寺の住職役の池乃めだか、銀座の料亭の娘で、辰子の人生を大きく変えてしまう役どころの野村真美などが脇を固め、辰子と徳三の運命にヤキモキさせられる。

先代の主人・誠志郎が亡くなり、小料理屋「誠志郎」の味の評判はガタ落ちだった。そんな時に、ひょっこり徳三(前川清)が「その昔、お世話になりまして」と現れる。

店のお金を持ち逃げした板長を目撃した徳三(前川清)と、早く店に戻るように諭す女将(藤山直美)との軽妙なやりとりに、観客は沸いた。

亡き父・誠志郎の味を完璧に再現できる徳三に、女将の辰子は店の存続を託す。
物語の終盤には観客の涙を誘う「恋の法善寺横丁」だが、前川はその演技について「苦労はございません。楽をさせていただきました」と笑顔を見せていた。
「長いセリフもあったんですが、直美さんから『前川さんは物覚えが悪いから』と短くしていただいたものですから(笑)」
その言葉を受けて、藤山は「前川さんは2行以上のセリフはしゃべれない。マンションの間取りで言うと、四畳半以上は動けませんしね」。

徳三のおかげで小料理の窮地が救われると、女将と花板の立場を越えて、2人にはお互いを意識し合う感情が芽生え始める。

順風満帆となった時、かつて徳三が働いていた銀座の料亭から徳三の力を借りたいという申し出が。女将の辰子は、徳三に芽生えた気持ちを押し殺し・・・。
しかし、実際には前川は「直美さんと一緒にお芝居をさせていただいて、芝居を感じさせていただきました。与えられたセリフも忘れることなく、一語一句、心を込めて一生懸命言わせていただき、皆さんにご迷惑をかけないように頑張りたい」と、芝居に真摯に取り組んでおり、「直美さんの役者としての魅力は、圧であったり、温かさだったり、息づかいだったり。誰よりも近くでそれらを感じられる幸せです」と話していた。
そんな前川に藤山は「前川さんの理解力が深くて、感性もすごい。役者さん一人ひとりを活かすアドバイスもいただきました。前川さんに私の演技を観てもらえると思うとうれしい」と応じていた。
第二部は「前川清オンステージ」。前川と藤山との出会いや、前川自身が忘れられない交遊録を紹介するスライド上映などを挟みながら、前川は全10曲を披露した。
上方喜劇界を背負った偉大なる役者・藤山寛美を父に持つ藤山直美は、父親が亡くなった時に地方巡業中だったそうで、通夜も葬儀にも出席できなかった。巡業中の移動のバスの中で、イヤホンで聴いてひとり涙したのが、前川が歌った「なきむし姫の物語」だったという。
「前川さんから曲の並びの相談を受けました。素人の意見を聞いてくださるんですね。でも、あの曲もこの曲も入っていません。10曲の中に曲が入りきらないほど、前川さんはヒット曲を現在進行形でお持ちなんです。年齢による変化はあるでしょうが、クール・ファイブ時代と変わらず、変に歌をねじったりしないでストレートに歌っておられるのがすごい」
藤山は、前川の歌に救われた話をしつつ、歌手・前川清の偉大さについて語っていた。
前川は、アルバム『前川清 2022年全曲集』に収録された楽曲を中心に歌いつつ、終盤は内山田洋とクール・ファイブ時代の作品から「長崎は今日も雨だった」「中の島ブルース」「そして、神戸」などを届けた。
また新曲「胸の汽笛は今も」では、「昭和の時代には新曲が何枚売れたのかなというのが気になったが、今では新曲は売れません。それでもなぜ、新曲を出すかと言えば、2~3人の方が新曲を望まれていまして・・・」と笑わせていた。観客からは「そんなことはないよ」という声が上がった新曲「胸の汽笛は今も」は10年前、前川が63歳の時に完成していた曲だったが、当時の前川は詞の内容にしっくり来なかったという。だが、「いい詞だなと思えるようになった」と、昨年9月にリリースした。
有馬三恵子による「胸の汽笛は今も」の歌詞は、老いるにはまだ早い。日暮れにはまだ時間はある。若さを粗末にしてきたけれど、若かったあの頃のように、胸の汽笛を鳴らそうと、訴えている。
古希を超えたからこそ、前川は“胸の汽笛は今も鳴るよ”(歌詞より)と歌う。
「コロナ禍など何もなかった時代に比べると、今は寂しい思いがします。ですが、私も直美さんも、今まで以上に頑張っている自分がいるように思います。不思議なもんです。頑張っているこの気持ちをお芝居と歌を通じて、少しでもお客様に伝えられたらなという思いで初日を迎えました」
そんな前川を支えるように、藤山は「来てくださったお客様に感謝して、出演者全員で千穐楽まで一生懸命務めさせていただきます」と、力を込めていた。
明治座『前川清・藤山直美公演』
第一部 恋の法善寺横丁
脚本:横山一真/演出:竹園元
出演:前川清、藤山直美、野村真美、池乃めだか、田村亮 ほか
第二部 前川清オンステージ
曲目「長崎は今日も雨だった」「そして、神戸」「東京砂漠」ほか
公演概要
公演日程 2022年2月18日(金)~3月13日(日)
開演時間 11:00~/16:00~
料金(税込) S席=13,000円/A席=6,500円
※6歳以上有料/5歳以下のお子様のご入場はご遠慮ください。
詳細とチケットの購入は明治座 公式ホームページへ
https://www.meijiza.co.jp/lineup/2022/02/
▼今年1月に大阪・新歌舞伎座で行われた『新春特別企画 前川清・藤山直美』のダイジェスト映像
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2021年9月29日発売
前川清「胸の汽笛は今も」

「胸の汽笛は今も」
作詞/有馬三恵子 作曲/都志見 隆 編曲/萩田光雄
c/w「虹がかかるように」
作詞・作曲/紘毅 編曲/杉山ユカリ
テイチクエンタテインメント TECA-21046 ¥1,350(税込)
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