
「人間だってできるぞ!」 ゆあさみちるが“引き算”のボーカルで名曲に挑んだカバーアルバム『Stay Gold〜covers〜』で輝く!
I shall be telling this with a sigh
Somewhere ages and ages hence:
ずっと先の未来、どこかの街角で。
私は静かにため息をつき、あの日のことを語るのだろう――。
アメリカを代表する詩人、ロバート・フロストが1915年に発表した詩「The Road Not Taken(選ばれざる道)」の一節だ。

変幻自在のボーカリスト・ゆあさみちるによる初のカバーアルバム『Stay Gold〜covers〜』が完成した。“Stay Gold”とは「輝き続ける」という意味を持つ。この言葉が世界中に広まったのは、同じくフロストの詩「Nothing Gold Can Stay(黄金は長くは続かない)」(1923年発表)だと言われている。美しいもの、純粋なものは決して長くは続かない。だからこそ、自分を偽らず、いつまでもピュアな心を忘れないでいてほしい。そんな祈りのような言葉だ。
ゆあさは、『Stay Gold』というタイトルに、日本の伝統的な修復技法である“金継ぎ”の思いも込めたという。
「今回の『Stay Gold』は、昭和や平成の名曲を令和に歌い継ぐ作品です。昔懐かしい楽器の音色や昭和感を活かしたサウンドにしたいと思いました。ジャケット写真も金継ぎをイメージしています。僕自身、まだまだ未熟で、これまでの人生の中でボロボロに割れてしまったような部分もたくさんあって。金継ぎをしなくちゃいけないそんな不器用な僕を、この昭和の素晴らしい音楽たちがつなぎ合わせてくれたんです。逆に言えば、名曲たちのおかげで美しく修復された“ゆあさみちる”という器で表現し、曲たちを令和の時代、そしてその次の時代へとつなげていく。輝き続ける(Stay Gold)作品として歌い継いでいきたい。そんな願いを込めました」

ゆあさのこれまでの道のりは、決して平坦でも王道でもなかった。音楽の道を目指して新潟から「逃げるように」上京したものの、自身の目指す方向と現実とのギャップに悩み、一時は生活のためにアルバイトに明け暮れ、歌手の夢を諦めかけるほど追い詰められた。
そんな彼女が最後の望みを託したのが、以前から憧れていた音楽家・花岡優平だった。
「どうしても花岡先生に曲を書いていただきたかったんです。でも、普通のやり方が分からなくて。先生がよく飲みにいらっしゃるという銀座のクラブを見つけ出して、そこで接客して働きながら、先生が来るのをひたすら待つというストーカーみたいな作戦に出ました(笑)。ママから『あんたみたいに太っている人は要らないわよ』って言われて、必死で6キロ痩せて。待つこと3カ月、ようやくお店にいらっしゃって直談判できたんですけど、後になって『お前、普通にライブに来ればよかったじゃないか』って言われました」
一途な思いで道を切り拓いたゆあさだが、念願叶って師事した花岡からは、厳しい言葉を浴びせられたという。
「歌のことはもちろん、生き方から全部叩き直してもらいました。中でも一番心に刺さって、何度も言われたのが『お前には覚悟が足りない』という言葉です。言われるたびにしょんぼりして、何度もクビになりかけました。でも、その言葉があったから、今の僕があります。あの時言われた『覚悟』の意味が、今になってようやく身体の芯まで染み込んできている気がします」

2020年4月、「私の花」で待望のメジャーデビューを果たすが、世界はコロナ禍に見舞われた。思うように歌えない日々の中、彼女は東京での生活基盤をすべて手放し、花岡の拠点でもある大分県別府市へと生活の場を移す決断を下す。その行動は、決して逃避などではなく、かつて恩師から問われた「覚悟」に対する、ゆあさみちるなりの答えだった。
誰も歩こうとしない道を選び、行き着いた別府の温泉地。そこで彼女は、人々のお節介で温かい人情に触れることになる。
「別府の共同温泉に行くと、知らないおばあちゃんたちが『あら、あんたどこから来たん? 石鹸あるんかい?』って、どんどん話しかけてきてくれるんです。そういう温かくてありがたいお節介に触れているうちに、地に足の着いた感覚が戻ってきて。歌い手としてだけじゃなく、一人の人間としての自信のなさも、別府の街が修復してくれたんだと思います」

そうした日々の積み重ねの中で、カバーアルバム制作の話が進んでいく。だが実を言うと、ゆあさは当初、自身がカバーアルバムを出すことに否定的だった。
「カバーアルバムって、すでに確固たる地位を築いている一流のアーティストの方が出すものだと思っていました。ライブではいろいろなカバー曲を歌わせていただいていましたが、僕なんかが本家の方々を超えられるわけがないって。だからカバーアルバムを出すことにずっと乗り気じゃなかったんです。でも、先生から『そろそろやってみるか』と背中を押されて。ライブを通じて歌い込んでいくうちに、ただ真似るのではなく、『ゆあさみちるのフィルターを通したらこうなる』『僕ならこう歌う』という自分の表現がおぼろげながら見えてきたタイミングでもありました。だから今回は、原曲を知らない世代の方には新曲のように聴いていただきたいですし、原曲を知っている方には、僕の歌を聴いて『原曲もやっぱりいいよね』と感じていただけるような、音楽の中継ぎになれたらいいなと思っています」


収録された12曲はすべて、このアルバムのために新しいアレンジで生まれ変わっている。そこには、明確なサウンドの方向性があった。アレンジの多くは、大学在学中にジャズピアニスト岩崎大輔に師事し、ジャズを中軸としつつ幅広い音楽領域で活動するピアニスト・中村力哉が担当している。
「全体の方向性は花岡先生が大きく指揮を執ってくださり、アレンジは力哉さんにお願いしました。力哉さんには『落ち着いた、大人のおしゃれな作品にしましょう』と。今の時代、AIが驚くほど素晴らしい編曲を作ってしまいますよね。それがすごく悔しくて、『人間だってできるぞ、この野郎!』って(笑)。だからこそ、生身の人間が奏でるアコースティックな『引き算のアレンジ』にこだわりました。音が少ない分、ボーカルの息遣いや感情が丸裸にされてしまうので、ごまかしが一切効かない、歌手として試されるアルバムになりました」

レコーディングは、その生身の温度を閉じ込めるためにライブ感を極限まで追求して行われた。
「2日半ぐらい、朝から晩までがっつり時間をかけて録りました。ボーカル録りに時間をかけるというよりは、バンドの皆さんと一緒に『せーの』で音を出して、同時に録音する同録のスタイルを大切にしました。何テイクも重ねて綺麗に整えるのではなく、その瞬間の呼吸や、生きた空気感をそのままパッケージしたかったんです」
選曲には、ゆあさの表現者としての強いこだわりが反映されている。
「僕は『カスバの女』や『朝日楼』のような、白黒の映画を観ているような、砂埃が舞うような世界観がすごく好きなんです。3分半の短いドラマの中で、主人公の情念を演じるように歌うのが理想。気に入っているのは『朝日楼』や、花岡先生の『ヨコハマ』。自分で歌っておきながらついつい何度も聴き返してしまうくらいです」
そして、本作の大きな目玉の一つが、同世代の旗手・真田ナオキとのデュエットによる「ダンシング・オールナイト」だ。
「真田さんとは別々に録音したんですが、まず僕が歌って、そこに真田さんが声を重ねてくれて。さらに僕が引いたり寄ったりと、お互いに試行錯誤しながら作りました。原曲はすごく派手ですが、今回は二人とも声を張り上げず、ものすごく抑えて歌っています。キーも真田さんにとっては高く、僕にとっては低い設定だったので、普段の真田さんの強烈な歌声とは違う、とても切なくセクシーな一面が引き出されていると思います。彼とは同世代で、仲間というとおこがましいですが、いつも背中を追いかけたい存在です。彼がライブで頑張っている姿を見るとすごく刺激になりますし、たまには肩を並べて会話ができるような、手の届く位置にいられるように僕も頑張ろうって思わせてくれます。この曲では、決して顔を合わせることはないけれど、悲しく回るオルゴール人形のように、背中合わせで踊っているような二人の距離感を表現しました」

アルバムの終盤には、「ヨイトマケの唄」「風の中のクロニクル」、そして「手のひらを太陽に」という3曲が並ぶ。ここには、ゆあさみちるの「生きる」ことへの切実な祈りが込められている。
「以前、花岡先生から『反戦の歌を書いてみないか』と提案されて、自分で詞曲を書いた未発表の曲があるんです。直接的に戦争反対と叫ぶのではなく、『僕たちは争うためではなく、愛するために生きているんだ』という、生きることそのものをテーマにした作品でした。その『生きる』というメッセージに強く通じるのが、このアルバムの最後を飾る3曲なんです。特に『手のひらを太陽に』は、小学生の頃、“朝の歌”でよく歌っていた思い出の曲です。まさか大人になって、自分の作品として歌えるなんて思ってもみませんでした。ただ、このアルバムに入れるにあたって、こだわった部分があります。原曲の最後は『友だちなんだ』で終わりますが、僕は歌詞の途中にも出てくる『愛するんだ』というフレーズを最後に持ってきて歌いました。どんなに不器用でも、傷ついても、僕たちは今を生きている。そして、愛するために生きているんだ。その思いを、このアルバムの最後に響かせたかったんです」
ライブなどで歌い込んできた楽曲が、極上の引き算のアレンジと生々しいボーカルによって、見事な作品集へと昇華した。
「このアルバムは、ただ聴いて楽しんでいただくだけでなく、僕のライブに来ていただくための『予習』になる一枚にもなりました。家でお酒を飲みながら聴くのにもぴったりな作品になっています。このアルバムを通して今のゆあさみちるの音楽を知ってもらい、そしてライブ会場で、生の歌を共有できたら最高にうれしいです」

冒頭に紹介したフロストの詩「選ばれざる道」には、ため息をつきながら未来で語られる「あの日の決断」の続きが、こう記されている。
Two roads diverged in a wood, and I—
I took the one less traveled by,
And that has made all the difference.
森の中で、道が二つに分かれていた。
だから私は――誰も歩こうとしない道を選んだ。
その決断が、私の人生のすべてを変えたのだ、と。
この詩に登場する二つの道に、客観的な違いはないと言われる。人生の岐路において、どちらを選ぶかに正解はない。ただ一つ確かなのは、「一度選んだら二度と引き返すことはできない」ということ。
ゆあさみちるの歩みも同じだ。銀座で働きながら恩師を待ったことも、東京を離れて別府へ移住したことも。その時々で悩みながら選んだ道が、結果として「誰も行かない道」だった。
歌手としての旅はまだ途中。だが、自分の選んだ道を一途に歩き続けた結果として、彼女は今、この『Stay Gold〜covers〜』という作品を世に送り出した。名曲たちによって金継ぎされた器が放つ、嘘のない確かな輝き。この輝きはさらに深く、黄金色に色づいていくことだろう。
2026年10月7日発売
ゆあさみちる『Stay Gold~covers~』

テイチクエンタテインメント TECL-1020 ¥3,500(税込)
収録曲
01. 飾りじゃないのよ涙は
作詞・作曲/井上陽水 編曲:中村力哉
02. ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー
作詞・作曲/鈴木道明 編曲/中村力哉
03. カスバの女
作詞/大高ひさを 作曲/久我山明 編曲/中村力哉
04.朝日楼
作詞/PD 訳詞/浅川マキ 作曲/PD 編曲/溝口伸一
05. ヨコハマ
作詞・作曲/花岡優平 編曲/中村力哉
06. ダンシング・オールナイト(duet with 真田ナオキ)
作詞/水谷啓二 作曲/もんたよしのり 編曲/中村力哉
07. プレイバックpart2
作詞/阿木燿子 作曲/宇崎竜童 編曲/中村力哉
08. カルチェラタンの雪
作詞/門谷憲二 作曲/岡本一生 編曲/中村力哉
09. 愛のままで…
作詞・作曲/花岡優平 編曲/中村力哉
10. ヨイトマケの唄
作詞・作曲/美輪明宏 編曲/中村力哉
11. 風の中のクロニクル
作詞/門谷憲二 作曲/花岡優平 編曲/中村力哉
12. 手のひらを太陽に
作詞/やなせたかし 作曲/いずみたく 編曲/中村力哉
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