
82歳のロックンローラー、止まらない熱き鼓動。尾藤イサオが28年ぶりの新曲『Angel』で歌う「しょっぱい俺」のリアルと、100歳へのシャウト
1964年、シングル『匕首(あいくち)マッキー』でデビュー。和製プレスリーとしてロカビリーの熱狂を牽引し、ザ・ビートルズ来日公演の前座という歴史的ステージに立ち、さらにはアニメ『あしたのジョー』の主題歌で日本中の心を震わせた男。日本のロックンロール黎明期から今日まで、マイクスタンドを握りしめ、歌い、踊り、ステージを駆け回ってきた尾藤イサオは、今年で82歳を迎えた。
そんな彼が自身の音楽遍歴を網羅したベストアルバム『尾藤イサオ PLATINUM BEST』をリリースした。本作の目玉は、なんと言っても約28年ぶりとなる完全新曲『Angel』の収録だ。
「若い頃は、80歳で歌っている自分なんて想像もできませんでしたよ。当時の自分が見たら『すごいおじいちゃんがいるな』って思うでしょうね(笑)。でも、今この年代で歌って、お客さんもロックンロールでノッてくださる。本当に幸せなことですし、死ぬまで歌い続けたいと思っています」
そう朗らかに笑う彼の最新曲には、年齢という概念を吹き飛ばすほどの生々しいボーカルと、波乱万丈な人生を歩んできた男の“リアル”が刻み込まれている。

巨匠・浜圭介の思いに応えた、ライブ感あふれる“本気のシャウト”
28年ぶりの新曲『Angel』は、数々の大ヒット曲を生み出してきた作曲家・浜圭介氏からの熱烈なラブコールによって誕生した。
「浜先生が『尾藤に俺の曲を歌わせたい』と声をかけてくださったんです。初めてお会いした時はお酒の話ばかりで、歌の話はあまりしませんでしたけどね(笑)。後から曲を聴かせてもらったら、ロカビリーやロックンロールの雰囲気が強くて、僕の声にも非常に合っていたので、何の抵抗もなく歌わせていただきました」
レコーディングスタジオに入った尾藤に、浜氏は「もっと型に収まらない雰囲気で、崩して歌ってほしい」とリクエストしたという。その結果、完成した音源はまるでライブハウスの最前列にいるかのような熱気に満ちている。曲中には尾藤の「ウェイ!」という自然なシャウトが響き、タイトルの「エンジェル」というフレーズは、ロカビリー特有のねちっこい巻き舌で「エーンジュエル」と発音されている。
「すぐに崩して歌うのは難しいものですね。でも、CDではバランスを考えていますが、ライブではもっと崩して歌う余地があると思っています。歌うたびに違う表現が生まれるものですから」

「しょっぱい俺」に重なる、曲芸師からの泥臭い道のり
作詞家の高橋哲也氏と福場庸介氏が手がけた『Angel』の冒頭は、《夢破れ しょっぱい俺の前に 突然あらわれた女》という、泥臭くも胸を打つフレーズから始まる。このしょっぱい」という言葉に、尾藤自身も強く共感したという。
「歌の意味を深く考えて歌うことはあまりないのですが、この歌詞には共感しましたね。自分にも『しょっぱい思い』をした経験があるので、そういう気持ちで歌いました」
尾藤の人生は、まさに「しょっぱい」経験の連続だった。百面相の芸人だった父と、義太夫の下座で三味線を弾いていた母という芸事の血筋に生まれたが、幼くして両親と死別。小学6年生の時に”口減らし”のために曲芸師・鏡味小鉄のもとへ弟子入りをした。
「鏡味鉄太郎」という高座名をもらい、口にくわえた撥(ばち)や匕首(あいくち)の上に土瓶を乗せたり、ナイフを投げたりする太神楽の技を磨きながら、米軍キャンプをドサ回りした。そんな彼に転機が訪れたのは13歳の時。おつかいの帰り道、蕎麦屋の奥のラジオから聴こえてきた音楽に足が釘付けになった。エルヴィス・プレスリーの『ハートブレイク・ホテル』だった。さらに、曲芸師の演芸一座として約1年のアメリカ公演を経験し、本場のショービジネスやロックンロールの洗礼を全身に浴びたことで、歌手への夢は決定的になる。
「もしプレスリーと出会っていなければ、僕は今も寄席芸人として曲芸をしていたかもしれません。『あしたのジョー』と『エルヴィス・プレスリー』、そして『ロックンロール』。この三つが僕の人生を大きく変えました」

曲芸師の道を捨てて歌手を目指した尾藤は、「向こうがナイフなら、こちらは匕首だ」と、ジャズのスタンダードナンバー「マック・ザ・ナイフ」の日本語版「匕首マッキー」でデビュー。やがて和製プレスリーとしてスターダムを駆け上がる。
1966年、ザ・ビートルズ来日公演で前座を務めた際のエピソードも痛快だ。当時、アリーナに客を入れなかった伝説の武道館公演で、尾藤はともに出演した内田裕也とふたりでステージの真ん前に椅子を置き、偉そうに脚を組んで至近距離で本物のロックンロールを体感したという。
彼を暗闇から救い出し、常に熱狂の最前線へと導いてきたのは、音楽という名の“エンジェル”だったのだろう。だからこそ、幾多の苦労を乗り越えてきた82歳の声で歌われる「お前は俺のエンジェル」というストレートな言葉は、抗いがたい説得力を持って聴く者の胸を打つ。

盟友・尾崎紀世彦への敬意と、タバコをやめた理由
今回のベストアルバムには、『Angel』以外にも尾藤の幅広いキャリアを物語る24曲が収録されているが、注目したいのは『また逢う日まで(New Recording)』の存在だ。これは今回のために新録されたものではないが、最初に録音された端正な歌唱とは一味違う、荒々しいシャウトが入ったライブ感あふれる別バージョンである。
「この曲は尾崎紀世彦の歌であり、彼にはまったく敵わないと思っています」
そう謙虚に語る裏には、2012年に他界した尾崎氏への深い友情とリスペクトがある。かつて尾崎氏とともに「O2(オーツー)」というデュオを組んでいた尾藤。圧倒的な歌唱力を持つ尾崎氏がハモリに徹し、尾藤にメインボーカルを任せてくれたのだという。
「O2でメインボーカルを務める責任感から、喉の管理を意識するようになりました。若い頃は1日3箱吸っていたタバコも、キヨ(尾崎氏)の助言でやめたんです」
尾崎氏が守り、引き出してくれた今の声。だからこそ、綺麗に歌い上げるのではなく、尾藤イサオの武器である生々しい熱量が刻まれたバージョンの『また逢う日まで』が収録されることに、大きな意味があるのだ。

「死ぬまで歌う」。100歳まで転がり続ける男の覚悟
年齢を重ねるにつれ、尾藤の体にも様々な変化が訪れた。30代後半からは目の病を患い、視力は徐々に失われていき、視界の一部が見えない。今では台本や歌詞を目で読むことも難しい。しかし、彼は音源を何度も耳で聴き込み、完全に自分の中に落とし込んでステージに立つ。満身創痍であっても、マイクを握れば瞬時に「尾藤イサオ」として空間を支配する。
「親孝行の精神と、毎日1時間のウォーキング、そして長年歌い続けてきたことが秘訣ですね。プロとして365日いつでも歌える体調を維持することが最優先です。若い頃のように大量にお酒を飲むこともなくなりましたよ」
取材中、「アイスクリームが好きで、子供の頃に(遠征先の)北海道で食べた20円のアイスと貝柱の味が忘れられない」とチャーミングな笑顔を見せる一幕もあったが、音楽の話になると、その目は鋭い光を帯びる。
「ロックンロールは『生きがい』です。もしロックンロールがなかったら、ただの人になってしまうでしょうね」
「もしロックンロールがなかったら、今も”鏡味鉄太郎”だったでしょう」とも笑顔で語る尾藤イサオ。過去の栄光にすがるのではなく、今もなお「しょっぱい俺」の魂を燃やし、新しい歌を歌い続ける。彼にとってロックンロールとは、止まることのない転がり続ける石そのものだ。100歳まで現役を宣言するこの稀代のエンターテイナーの熱き鼓動は、これからも決して鳴り止むことはない。

2026年1月28日発売
尾藤イサオ『PLATINUM BEST』

ユニバーサル ミュージック UPCY-8078 ¥3,000(税込)
日本のロック・シーンを草創期から牽引してきた“和製プレスリー”こと尾藤イサオ。82歳にしてなお進化を続ける彼の音楽遍歴を網羅した、完全保存版ベストアルバム『尾藤イサオ PLATINUM BEST』。本作最大の注目は、数々のヒット曲を生み出した浜圭介氏の書き下ろしによる約28年ぶりの完全新曲『Angel』の収録だ。
「夢破れ しょっぱい俺の前に 突然あらわれた女」
不器用な男の泥臭い人生と、光を与えてくれた“エンジェル”への愛を歌い上げるこの曲は、尾藤のパワフルなシャウトと巻き舌のボーカルが炸裂する、極上のロックンロール・ナンバー。数々の困難を乗り越え、今なおステージで転がり続ける彼だからこそ歌える“人生の応援歌”に仕上がっている。
さらにアルバムには、大ヒット曲「悲しき願い」から、魂を揺さぶる「あしたのジョー」、NHK『みんなのうた』で親しまれた「赤鬼と青鬼のタンゴ」、1970年代にバックコーラスグループ「ドーン」を率いて結成した音楽プロジェクト「尾藤イサオ&ドーン」時代の楽曲まで、ジャンルを超えた珠玉の名曲群を最新リマスター音源で収録。そして、盟友・尾崎紀世彦への敬意と生々しい熱量が刻まれた「また逢う日まで(New Recording)」など、全24曲がぎっしりと詰まっている。
収録曲目 ( )内は作詞/作曲/編曲
1 Angel
(浜 圭介/浜 圭介/高橋哲也、福場庸介)
2 悲しき願い
(タカオカンベ/ベンジャミン、マーカス、クラドウェル/井上忠夫)
3 匕首(あいくち)マッキー
(漣 健児/K.ワイル/東海林 修)
4 淋しいだけじゃない
(みナみカズみ/ミルス/小田啓義)
5 ベビーに逢う時
(漣 健児/E. Clacci/井上忠夫)
6 ワーク・ソング
(松尾 実/N. アダレー/小田啓義)
7 悲しきパラダイス
(漣 健児/S. デビソン/井上忠夫)
8 涙のギター
(橋本 淳/すぎやまこういち/すぎやまこういち)
9 悲しきさだめ
(橋本 淳/すぎやまこういち/すぎやまこういち)
10 日はまた昇る
(橋本 淳/井上忠夫/井上忠夫)
11 センチメンタル波止場
(橋本 淳/筒美京平/筒美京平)
12 ダーティ・ドッグ
(橋本 淳/筒美京平/筒美京平)
13 銀の十字架
(橋本 淳/川口 真/川口 真)
14 風のうわさ
(橋本 淳/筒美京平/筒美京平)
15 片想いのひとしずく
(橋本 淳/筒美京平/筒美京平)
16 悲しき願い(尾藤イサオ&ドーン)
(カオカンベ/ベンジャミン、マーカス、クラドウェル/萩田光雄)
17 涙のギター(尾藤イサオ&ドーン)
(橋本 淳/すぎやまこういち/馬飼野康二)
18 巷に雨が降るごとく
(たかたかし/斎藤 覚/萩田光雄)
19 シー・ユー・アゲイン雰囲気
(タリモ/浜田金吾/塩村 宰)
20 彼女はムービング・オン
(タリモ/浜田金吾/塩村 宰)
21 あしたのジョー
(寺山修司/八木正生/八木正生)
22 また逢う日まで(New Recording)
(阿久 悠/筒美京平/筒美京平)
23 赤鬼と青鬼のタンゴ
(加藤 直/福田和禾子/福田和禾子)
24 サラマンドラ
(加藤 直/髙井達雄/高井達雄)









補正-150x150.jpg)

