おかゆの原点・渋谷に生きる“マリア”の物語~新曲「渋谷のマリア」でシャウトして~
“おんなギター流し”のおかゆがメジャーデビュー5周年に、渾身の作品「渋谷のマリア」を発表した。自身の原点でもある渋谷を舞台にした作品は何度も試行錯誤し難産だったが、それだけにお気に入りの作品ができあがった。
文=藤井利香
年号が「令和」になると同時に「ヨコハマ・ヘンリー」でメジャーデビューを果たし、今年5周年を迎えたおかゆ。このほど5thシングル「渋谷のマリア」をリリースし、自身の代表曲にしていきたいと意気込んでいる。
タイトルにある「渋谷」は、おかゆにとって特別な街だ。札幌で生まれ育ち、歌手になることが夢だった母に連れられて幼少の頃からスナックに出入り。歌は自然と生活の一部になり、やがて憧れたのが大都会の街・渋谷だった。
当時は渋谷のギャルになりたいというのが上京の目的ながら、やがてギター片手に「平成のおんなギター流し」として活動をスタートさせることとなり、そんな生き方は決して楽なものではなかったが、渋谷は歌手・おかゆを育んだ原点といえる場所になった。今もライブ活動の中心地として、頻繁に足を運んでいる。
かねてから渋谷の歌をつくりたいという思いはあったそうで、このほど自作の周年曲としてついに登場の運びとなった。再開発の波で著しく変貌を遂げている渋谷だが、おかゆの渋谷に対する思いはかつてとまったく変わらない。自身の半生をも重ねることで、熱のこもった曲に仕上がっている。
カップリングには庄野真代が作詞し、1976年にサンディーが歌った「グッバイ・モーニング」をカバー。そのほかに自作の曲である「黄昏の雨を抱いて・・・」「雪舞桜」をそれぞれカップリングとして収録した3タイプを発売した。
「渋谷」に対する熱がすごすぎて、産みの苦しみを味わった曲づくり。マリアという主人公に自分の人生をもだぶらせて・・・
渋谷は人生を語るうえで欠かせない場所。思いがあまりに強すぎて、曲づくりは困難を極めました。サビの部分のメロディーが最初に出てきたまではよかったけど、あとは当初の予定からメロディーも詩も大幅に変更。納得がいかず、レコーディングのギリギリまで悩み続けてようやく完成しました。もうこれは、私の代表曲にしなくちゃ気が済まないと思うほどです(笑)。
もともと主人公は2人いたんです。それをマリアと名づけた女性だけにして、このマリアを私の姿と思ってもらってもいいし、別の存在と思ってもらってもいい。ある程度俯瞰してストーリーを書きながら、母親に連れられて育った私の姿を部分的に投影して仕上げました。
主人公を“マリア”という名前にしたのは、世界的に多くて親しみやすい名前と聞いたから。多くの人が行き交う渋谷の街を包み込むような存在として、聖母マリアという意味合いもあります。
歌詞では、ラストの“渋谷という谷に 時代が降り積もる”の“降り積もる”というワードが一つのポイントです。いろいろな人の想いが時とともに重なり合っていく、それを表現したいと頭を捻り、最後の最後で出てきたワード。変貌を続ける渋谷を語るのにぴったりだと、とても気に入っています。
めざしたのは、令和の歌謡ロック! 「渋谷のマリア」は歌えば歌うほどよくなっていく!
♪道~玄坂と、1拍を伸ばして始める歌い出し。インパクトを出したいと、ここもこだわった部分です。その流れでAメロ、Bメロともに最初とはまったく違う曲調になったのですが、最終的にこの曲はシャウトして歌おう! ロック仕立てにしよう!と考えました。「渋谷のマリア」は、まさに令和の歌謡ロック。デビュー曲の「ヨコハマ・ヘンリー」でもここまで声を張り上げて歌っていません。
レコーディングは4曲収録のため2日間あり、初日に「渋谷のマリア」を終えたんです。でももう一度精査したうえで歌いたくて、2日目も挑戦しました。結果、採用されたのは2日目に歌った「渋谷のマリア」。この歌って、歌えば歌うほどよくなっていく気がするんです。それだけ私のこだわり、熱もすごいから! 今後も歌い込んでいくことでもっともっとよくなっていくはず。ライブでは、CD音源とはまた違う生々しさやリアリティをお届けできたらと思っています。
カップリングは「グッドバイ・モーニング」。「渋谷のマリア」とは対照的に、高音を響かせた明るい歌声が印象的
前作のカップリングが「夜間飛行」(ちあきなおみ)で、その前が「ダウンタウン」(山下達郎)。これまで同様、今回もカバー曲を入れたいと思い「グッドバイ・モーニング」(サンディー)を選びました。(1976年の)ポピュラーソングコンテストと世界歌謡祭でグランプリを獲得した作品ですが、背中をそっと押して励ましてくれるような、温かみのある曲です。
カバー曲を歌うとなるとやはり原曲の方の歌い方をリスペクトすべきだと思いますが、「グッドバイ・モーニング」は私の前にすでに18人もの方がカバーしています。つまり、私は19人目。皆さんそれぞれ自由に歌っていらしたので、私も力むことなく自由に、自分の世界観で歌っています。今までのカバー曲のなかで一番素直。今のおかゆとして、まっさらな気持ちで歌えています。
作詞は庄野真代(ポピュラーソングコンテストでは“ゆいまこと”名義)さんですが、こういう詩を書きたい、こういう曲をつくりたいと思わせてくれるような曲でもありますね。
すでに好評のラブバラード「黄昏の雨を抱いて・・・」。カラオケでも歌い応え十分の、自作のカップリング曲
私の作品のなかでバラード系は根強い人気。今回、男性からも支持を得ている好評の曲が、「黄昏の雨を抱いて・・・」です。ネガティブなラブバラードで、報われない恋の歌。まだ相手を想う気持ちが強く、別れたくないともがく女性の一途な恋を描いています。
頭から転調するラストまで、こちらはメロディーがすすっと出てきました。ひと言でいうと、ある日突然降りてきた曲、っていう感じ。
メロディーが明るいものではなかったので、浮かんできたのが雨の情景を詩に入れ込もうということ。それもただ雨に濡れているのではなく、心のなかはどうしようもないほどずぶ濡れになっている。だから、“雨を抱く”という表現を用いました。“あと少しだけ あと少しだけ”というサビの部分は、メロディーも詩も印象的になっています。
転調する前の間奏では、そこに“ハァァ~”という声を乗せ、悲痛な思いを表現しました。ここ、すごくこだわったところです。レコーディングのとき、エモーショナルな気分になり感情が込み上げて自然に声が出ちゃったんです。もともとは間奏なので声は入っていなかったのですが、テイク3くらいかな、思わず声になったものが採用されました。じっくり聴いていただきたいですね!
切ない歌詞が心を揺らす「雪舞桜」。桜と雪が同時に舞う札幌を舞台につくられたオリジナル作品
「雪舞桜」は、もともと楽曲提供するつもりでつくった曲。北海道はゴールデンウィークあたりにやっと桜が咲き、同時に雪が舞うこともある、そんな厳しい気候の場所です。そんな地元を舞台に、終わってしまった過去の恋を思い出している女性が主人公。前作の「赤いひまわり」とはまた違う情念を表現したいと思いました。
「雪舞桜」とは私の造語です。“溶けない雪舞桜”という歌詞がありますが、この言葉、切ないと思いませんか。ポジティブなバラードにしたつもりですが、ドラマチックな素晴らしいアレンジも加わって、切なさが一層際立つステキな作品になりました。
カラオケでも多くの人に歌っていただけたらと思い、普段はできるだけこぶしを抑えていますが、この曲では少し入れて雰囲気を出しました。1番の歌詞“桜舞う ひらひらと舞う”と2番の“雪が舞う はらはらと舞う”は、歌い応えのあるサビの部分。ぜひ、感情込めて歌ってください。
おかゆはこんな楽曲もつくれるよと、プロフィールの一部にもなればいいなと思っています。
2歳の自分が写る、札幌のスナックに残っていた1枚の写真。記憶になかったシーンに目を疑う
2023年も半ばに差し掛かりましたが、この半年間にいろいろなことがありました。一番印象的だったのは、北海道に眠る母のもとへ妹と一緒に行ったときのこと。それぞれの道を歩いてきた妹と一緒というのは本当に久しぶりでした。
ところが、訪ねた実家がなくなっていて大ショック。しかも母が親しくしていたスナックも、現地に行ってみたらないじゃないですか。でもよくよく見たら、じつは通りの奥のほうに移転してまだ残っていたのです。お店の名前も同じで、これは本当にうれしかったですね。
マスターは変わらずお元気で、それだけでも感激なのに、アルバムを出してきて当時の写真を見せてくれました。そこにあった1枚が、なんと私が2歳でマイクを持っている姿。目を疑いました。スナックで歌った記憶などまったくなかったのに、私はどうやら母の好きだった曲を口ずさんでいたみたいなんです。
歌は私にとって生きる原動力、人生そのもの。母からのメッセージに歌い続ける意味がわかった気がした・・・
たぶん、母が一番好きだった高橋真梨子さんの曲ではないかと思います。たまたまこの日は、私が「for you…」を初めて歌った歌番組がオンエアされる日でした。母への想いが強すぎて、今まで真梨子さんの曲はとても歌えないと思っていた私。でも、今年1月に真梨子さんが上京するまでを過ごした博多で行ったラストコンサートを直に見たこと。しかもスタッフが仕事の調整をして送り出してくれたラストコンサートでしたので、母の好きだったこの曲を私が歌えるなら歌い継いでいきたいと、そんな心境の変化から出演を決めた番組です。偶然が重なっただけかもしれませんが、母から何かメッセージを受け取ったような、そんな気がしました。
振り返ると私は、これまで母のため、母の供養になるからと歌を歌い、思い出だけを頼りに生きてきました。でも、もうそれはやめようと思った。2歳から歌と関わっていたことがわかり、歌とは切っても切れない縁がある。誰かのためではなく、自分のためにも歌い続けることが一番いいことなんじゃないかと。
歌は私にとって生きる原動力、人生そのもの。札幌での出来事をきっかけに、私のなかの音楽観が少しずつ変わっていきそうな、そんな予感がしています。
自分のことを歌にするのは、「おかゆの夢は夜ひらく」(2020年リリース。両A面シングル「愛してよ/独り言」【おかゆの夢盤】に収録)以来になります。5周年というタイミングで新たな扉が開かれたのかもしれない、そう思うとこれからがとても楽しみです。「渋谷のマリア」、全力で歌っていきたいと思います!
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INFORMATION
おかゆメジャーデビュー5周年記念ライブ「渋谷のオカユ」
自身の原点である渋谷を舞台にした新曲「渋谷のマリア」を5月31日に発売したおかゆが、7月2日、ライブハウス「Veats Shibuya」でメジャーデビュー5周年記念ライブ「渋谷のオカユ」を開催する。おかゆにとってライブハウスでの初のソロライブとなる。
日程:2023年7月2日(日)
開場:16:00 開演:17:00
会場:Veats Shibuya
チケット:全席7,000円(税込) 入場時別途ドリンク代600円
販売:チケットぴあ
2023年5月31日発売
おかゆ「渋谷のマリア」
(GM盤)
(黄昏盤)
(雪舞桜盤)
profile
おかゆ
1991年6月21日、北海道生まれ。歌手になることが夢だった母のもと、小さい頃からスナックに連れて行かれ、歌謡曲を聴いて育つ。母がいちばん好きだった歌手が髙橋真梨子。その影響で、自身も好きになった。東京・渋谷のギャルに憧れ上京。モデルやユニットなどの活動を行うが、17歳の時に突然の事故で母が他界。「歌手になりたかった」という母の夢を引き継ぐため、2014年1月、22歳の時に“流し”となる。母の口癖だった「七転び八起き幸せに。」を「7842」と数字に置き換え、流しで出会う7842人(組)のお客さんと一緒に写真を撮ることを目標に、ギター片手に日本全国のスナックを巡る(2019年4月に47都道府県を制覇)。2016年11月、髙橋真梨子ヘンリーバンドのサックス奏者、野々田万照(万☆照)のプロデュースで、インディーズデビュー。ファーストアルバム「おんな流しのブルース」を発売。インディーズ時代にはテレビ東京『THEカラオケ☆バトル』で2度優勝した。2019年5月1日、「ヨコハマ・ヘンリー」でビクターからメジャーデビュー。歌手名の「おかゆ」は、中学時代に本名の「ゆか」をもじって付けられたニックネーム。作詞・作曲家としても活動。秋元順子、小金沢昇司、水田竜子らに楽曲を提供。現在、BSテレビ東京「徳光和夫の名曲にっぽん」にアシスタントMCとしてレギュラーで出演中。ラジオアミューズメントパーク 「ラジおかゆ」(9局ネット)にメインMCとしてレギュラー出演中。ヤマハのアコギ(FGX5)を使用。
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