秋山涼子は走り続ける~熱き歌への思いを抱いて~

「出会いが私を強くしてくれる。なんとかなると信じて、やれるところまでやり続けたい」

 

今年の1月に秋山は、東京・新橋駅でテレビ番組「家、ついて行ってイイですか?」のスタッフから声をかけられた。「タクシー代を払うので、家について行ってもいいですか?」と聞かれて、「無理です、私、家の掃除が苦手で」と最初は断わった。けれども、「いや、待てよ。ゴールデンタイムの人気番組に出られるなんて、いい宣伝になるのではないか」と思い直す。

家族に電話すると「家の中を映すなんてとんでもない」と大反対。妹から「私たちは寝ちゃうからね。散らかったままでいいのね」と言われたが、「かえっておもしろいから、いいよ、そのままで」と答えて、番組スタッフのもとへ戻った。

その頃の秋山は歌う環境が整わず「これからどうしよう」と悩んでいたこともあり、職業を聞かれた時につい「崖っぷちの演歌歌手です」と答えてしまった。しかし、自宅へと向かうタクシーの中でアカペラで歌う秋山と一緒に流れた「崖っぷち演歌歌手」というテロップが、視聴者の心をとらえた。

「歌手って、普段はきれいなところしか見せないじゃないですか。だからそのギャップがいいと思ったの。家に着いたら妹はもう寝ていましたが、心得たものでファンの人が送ってくださった梨とか野菜の箱をわざと出しっぱなしにしておいたんですよ。『片付けちゃったら話題にならないでしょ』って(笑)」

番組が放送された後は、CDの売上ランキングや検索キーワードが赤丸急上昇、問い合わせの電話も鳴りっぱなしの状態となった。今では演歌を聴かないような若い人までが、ラッピングカーを見て「あ、崖っぷちの人だ」と声をかけてくることがあるほどだという。

「うちは小さな事務所ですから、何でも自分でやらなきゃならない。でも本当に温かい人たちに恵まれたおかげで、手伝っていただきながら楽しく続けてこられたのかな。大手にはかなわない力関係のようなものがある業界で、負けるものかと思っていつも前向きにやってきました。だからこそ、皆さんがやさしく温かく応援してくださるわけで、逆にそれを強みにすればいいんだなと思っています」

秋山は今年、デビュー32周年を迎えた。人との出会いを大切に、一歩でも半歩でもいいから前に進もうと思って歌い続けてきた。もちろん悔しいこともいっぱいあって、それを挙げたら切りがないと笑顔で話す。地道にこつこつと活動を続けるひたむきさと持ち前の行動力で、これからもずっと歌い続けていくのだろう。そんな秋山にとって、歌とはどういう存在なのだろうか。

「私、歌以外のことは考えたことなかったですね。生まれた時からこの道を行くように決まっていたのかなって。でももしかしたら、歌を天職と思っているのは自分だけで、はたから見たら『やめればいいのに』って思う人もいるかもしれない。それでも自分の人生ですからね。人がどう言おうがいいんです。やれるところまでやろうと思っています。やりたいことはやっておかないとね」

 

(文=夏見幸恵)

 


2020年11月18日発売
秋山涼子「終着…雪の根室線」

「終着…雪の根室線」  
作詞/円 香乃 作曲/松井義久 編曲/伊戸のりお  
「ホンキなの」  
作詞/円 香乃 作曲/松井義久 編曲/伊戸のりお  
「伊勢路ひとり」  
作詞/ゆうきよう 作曲/松井義久 編曲/伊戸のりお  
テイチクエンタテインメント TECA-20066 ¥1,364+税

大好評の秋山涼子ドラマチック演歌第2弾。前作「海峡なみだ雪」と同じ作家陣が、秋山本人の構想をもとに書き上げた、北海道の根室本線を舞台にした作品。愛する人と別れた女性が滝川から列車に乗り、野花南(のかなん)、幾寅(いくとら)へと、ひとり旅をする切ない心情を細やかに表現している。カップリングの「ホンキなの」は、松井久とシルバースターズの「砂の愛」(1979年)の歌詞を円 香乃氏が書き直し、アレンジも新たに生まれ変わった作品だ。「伊勢路ひとり」も傷心を癒やす女のひとり旅をモチーフにしており、歌詞にも伊勢の名所がちりばめられている。

 


Profile
秋山涼子(あきやま・りょうこ)
7月25日、東京都江戸川区生まれ。1988年「恋港」でアポロンよりデビュー。徳間ジャパン、ホリデージャパンを経て2012年テイチクに移籍。ラッピングを施した派手なキャンペーンカー「涼子号」で、日本全国津々浦々を回り、精力的に活動している。テレビ東京系「家、ついて行ってイイですか?」に出演した時に、「崖っぷち演歌歌手」を自称。その飾らない人柄と、歌に対するひたむきな姿勢が多くの共感を呼んでいる。好きなものは海、星空、チョコレート。趣味は温泉めぐり。

秋山涼子オフィシャルホームページ▶