田川寿美、歌を届ける使命～王道演歌「楓」から感じた表現者の心～

2020.10.16

THE LONG INTERVIEW
TOSHIMI TAGAWA

「思えば私の人生はプラスばかり」

――歌えない期間が続いた時、何か気づきはありましたか？

田川　たまたま自分が好きだと思える歌の世界でお仕事をさせていただいて、私の歌を喜んでくださる方がいてくださってという生活でした。思えば、私の人生はプラスばかり。身の丈以上の歩みをさせていただいてきているな、と感じましたね。緊急事態宣言が出され外出自粛が続く時でも、ファンのみなさんからたくさんのお手紙をいただきました。私の歌をすごく楽しみにしてくださっているんだなと、あらためて気づかされると、応援してくださっている方の魂で私は生かされているんだと思いました。人が人のことを思うことには限界があると思っていましたが、限界を超えてくださる方がいるなんて、もう奇跡ですよね。私自身は派手なタイプではなく、若い時から「真実はどこにあるのだろうか」などと考えるタイプだったので、コロナ禍についてもすべてに意味があると思うんですよね。

――新しく始められたことはありますか？

田川　友だちの勧めで瞑想を始めました。家にいることが多いので、その不安解消や前向きになれるルールのひとつとして。起きている時はずっといろんなことを考えているので、頭を休めることがないじゃないですか？　私の場合、眠っている間も考えごとをしているぐらいなので（笑）、「無」になることがとても大切だと思いました。

――瞑想によってリラックスできたり、心の整理ができたりすると言われますね。

田川　自分自身の内面と向き合うことで、何かゼロになれると言いますか。瞑想していると、だんだんと手足が温かくなってきて、「あっ、血が巡っているんだ」と感じます。現実の世界と精神の世界の分離を感じられるようになると、瞑想することが面白くなっていきましたね。だんだんと深く入れるタイミングもわかってきました。

歌を伝える使命、歌を届けるエネルギー

――この夏は、コロナ禍で帰省できなかった人も多いと思いますが、田川さんはいかがでしたか？

田川　例年は和歌山に帰省していました。田舎に帰ると、父が海に連れて行ってくれて、みんなでバーベキューをしたり、父が岩場へ行って銛で魚を獲ってくるので、その場で焼いて食べたり。ですから、今年は父が寂しそうでしたね。お墓参りにもいけなかったので、今年は東京・高輪にあるお寺で、写経をしました。「おじいちゃん、おばあちゃん、元気？　みんな頑張ってるよ。安心してね」って。

――田川さんのやさしい一面がうかがえますね。

田川　写経にしても瞑想にしても、心がリセットされるので、すっきりしますね。本当は今回のコロナが精神的に堪えているんでしょうね。でも、私には歌を伝えていく使命があるので、新しい音楽の血を入れ替えられる機会だと思っています。たまに曲を作ったり、勉強ができる時間だったり。

――作詞・作曲はよくされるのですか？

田川　ちょっとやってみたらできました（笑）。ギターはよく弾くので、作ってみようと思って。それで幸先生に聴いていただいたら、「音楽理論の中に入っているよ。へんてこな歌じゃないから大丈夫」と言ってくださって、気をよくしました（笑）。

――どんな歌でしょうか？

田川　みなさんにお会いできないので、「みんな、どうしてる？　元気でいてね」という気持ちを歌にしました。ちょっとだけブログでも紹介したんですけどね。

――全部を聴いてみたいですね。

田川　今はしたためる時間かなと思うので、いつか機会があれば、YouTubeなどで紹介できればいいですね。でも、モノを作る楽しさってこういうことかな、というのがわかりました。歌手として、いただいた歌を伝えるという役割がありますが、自分の思いを自由にストレートに伝える手段のひとつとして、自分の新しいチャンネルとして、そして自分への癒しの作業として曲作りは続けていきたいですね。

――田川さんにとって、新しい挑戦になりそうですか？

田川　私たちの仕事はお客様から“気”をいただきながらも、出すばかり。いただいた“気”を歌でエネルギーに変換していくようなイメージです。でも、何年もこの仕事を続けていると、その循環が弱くなります。そんな時にエネルギーを蓄えることができれば、歌うことの活力につながると思うんですよね。阿久悠先生が「走りながら充電する」っておっしゃっていたのを思い出しましたが、まさにその通りですね。