本格演歌で拓く、五条哲也の新境地
「五条哲也の演歌」を聴かせたい
――その思いを胸に、2007年に「さすらいおはら節」でデビューされて13年が経ちました。
五条 デビューは34歳の時ですから遅いデビューで、それからも……まぁ、いろんなことがあったんですけどね。好きなことをやっていて幸せなんですけど、今でもきついことはたくさんあります。だけど、あの時のおばあちゃんのことを思い出すと辞められない、辞めたくない。そう思いながらここまできました。
――そして、今回の新曲の「まよい川」で、ちょうど10作目のシングルになりますね。
五条 ありがたいことに、振り返ると本当にこの13年間、すばらしい作品をたくさんいただいてきました。「まよい川」の作詞は高畠じゅん子先生、作曲は水森英夫先生が手がけてくださいましたが、今回初めてご一緒させていただきました。女性が主人公の別れの歌なんですが、そんなに暗い歌ではなくて、もしかしたらこの二人は再会してまたうまくいくんじゃないかな……なんて思えちゃうような。この曲の明るい雰囲気が僕は好きですね。
――これまで五条さんが多く歌ってこられた歌謡曲路線とは異なり、演歌作品ということですが。
五条 オリジナル曲でここまでしっかりとした純粋な演歌というのは、じつは初めてなんですよ。デビュー曲も演歌だし、カバーなどで歌うこともなくはないんですが、一度「五条哲也の演歌」をお客様に聴いてほしい、歌いたいという思いは持っていたんですよね。それと、ファンの皆さんからも長いことリクエストをいただいていたので、改めて挑戦したんですが……正直かなり苦戦しました。
――どういったところに苦戦されたんですか?
五条 こぶしの似合うようなバリバリの演歌は、昔から聴くのも歌うのも大好きなんですけど、自分の曲で聴いていただくとなるとちょっと苦手意識があって……。単純に、自然に回るようなこぶしが苦手なんです。
――演歌といえばこぶし、みたいな感じがありますもんね。
五条 僕は自然にこぶしが出てくる声の出し方が未熟だったので、まずはしっかり声を出すという基本に立ち返ること。しっかり声を出した上での強弱というかね、表現というものを何度も水森先生にレッスンをしていただいて教えていただきました。レコーディングをやり直すという経験も初めてしました。何度歌っても自分なりの表現もなかなかできないし、これでいいのかなっていう迷いばっかりでしたね。
――演歌と歌謡曲では声の出し方って違うものなんですか。
五条 そのあたりは自分の中でまだ勉強中というか、わからないですね。ただ演歌は、相当声出ししないとこなせません。実際のところ、今まで僕が楽して歌っていたということでしょうね。長年の自分のくせというか、逆に変なテクニックに走ってたというか。ごまかさずにしっかりと歌うという、最初の基礎を忘れていたっていうことだと思います。歌を1曲ちゃんと歌うということは、汗も出るし酸欠にもなるし、本当はもっとしんどいものなんだ、ということを水森先生が目の前で歌いながら教えてくれました。本当にありがたかったです。
――最終的には水森先生からOKが出て。
五条 全然まだまだディレクターとか先生方の思いに応えられてはいないと思いますけど、ベストは尽くしたつもりです。まだ演歌に対してのコンプレックスも正直あります。でも「五条哲也が歌う演歌」ということで、今はまだまだかもしれないけど、少しかたちが出来上がったような気はします。
――今回の経験は、またいちから自分を見つめ直して勉強することができた。きっとこれからの五条さんの歌手人生において財産になりますよね。
五条 僕の歌手人生において大きな転機でした。反省もあり、気付きもあり……。この歌を歌う時は、これから毎回、絶対緊張すると思いますね(笑)。今年は間違いなくこれまでの13年間の中で一番濃い一年になると思っています。
――今後も演歌を歌っていきたい?
五条 それはもう、もちろんです。お客様やファンの皆さんにも喜んでいただきたいですしね。もっとたくさん勉強も苦労もして、迷い悩みながらも僕の演歌というものを作り出す努力をしていきたいと思っています。