三山ひろしの生い立ちの記【連載35回】
付き人時代の失敗話、第2弾 「松前さん、ごめんなさい!」
キャンペーン先でトラックナンバーを間違えた!
これまで何と34回にもわたり続いてきた連載「生い立ちの記」。35回目となる今回からは、WEBサイト「オトカゼ」での掲載です。まだまだ、僕のお話は続きますよ~。変わらぬお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!
さて、前回は「ミュージック★スター」9月号にて、僕の付き人時代のお話をしました。松前ひろ子師匠のイベント会場に行き、楽屋づくりで走り回った懐かしの思い出です。しかもある時、松前さんの着付けのお手伝いで“ポカ”をやり、ポカッと頭を叩かれた事件を大公開~。
それはご主人の中村典正先生もクスッと笑う、まさに愛情たっぷりの“ポカ”でした!
これに懲りず、今回はまたもや失敗談の第2弾をご紹介します。それは新曲のキャンペーンで出向いた先でのこと。今では会場にパソコンを持ち込み、すぐに音データを出すことができるのでとても便利になりましたが、当時はMDディスクに音を入れて持参し、それをプレーヤーで流してもらうシステムでした。僕はそのMDを常にカバンに入れて持ち歩き、レコード店などに営業へ行ったこともありました。
そのMDには、収録した音源それぞれに番号がつけられています。例えば、僕の曲でいえば「望郷山河」がトラックNO.1。「お岩木山」がNO.2。「北のおんな町」がNO.3といった具合です。
キャンペーン当日、松前さんと一緒に会場入りした僕は、プレーヤーを操作する音響担当の方に、「よろしくお願いします」と曲の順番を書いた紙を手渡しました。紙には1曲目が「トラックNO.3」、2曲目が「トラックNO.5」などと書かれています。担当の方は曲名を知らずとも、トラック番号さえわかれば問題はなかったのです。
開演時間まであと少し。この時、僕は大きな失敗をしていることにまったく気づいていませんでした。いつものように松前さんが出番となるまで身の回りのお手伝いをし、スタートすれば、まずはそこでホッと一息。あとは袖で見守って、無事終わるのを待つ……。この日もいつものように時間が流れていました。
思いっきり怒られて、でも腹の中では・・・!?
目の前にいるお客様のために、心を込めて歌を届ける松前さん。ハリのある歌声を会場内に響かせていよいよエンディングへと進み、曲はいつも「愛につつまれて」と決まっています。2ハーフの曲で、サビ冒頭の“らららららら~”から最後の“命つきるまで”はもっとも盛り上がり、感動を呼ぶ部分です。この歌を聴いて、来場されたお客様がとても満足そうに帰って行く姿を僕は何度も見ていました。
「愛につつまれて」のイントロが流れ始めました。
「あれ!?」
瞬間、背筋が凍りました。曲は確かに「愛につつまれて」ですが、これはフルバージョンではなく、盛り上がるハーフの部分をカットした2コーラスのみのバージョンだったのです。
「しまった!!」
でも、もう手遅れです。松前さんは何の疑いもなく、にこやかに歌い始めているではないですか。本来、双方のバージョンはイントロが異なるので、冷静に考えれば「あ、これは2コーラスで終わるな」とわかるはずなのですが、この日の松前さん、テンションが上がっていたのでしょう。気づく気配はまったくありません。
いや~、曲が終わるまでの2分半が僕にとってどれだけ長かったか。冷や汗が出てきて、終わったあとのことを考えると目の前が真っ暗になりました。
一方、気づいてほしいと願う僕の思いも裏腹に、2コーラスが終わり松前さんは最後のハーフに向かってノリノリです。そのまま“らららららら~”と歌い始めてしまいました。
しかし、そこで曲が♪ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン~と、歌声を遮るかのように終了。
ブチッと音が切れ、ようやくバージョンが違うことに気づいた松前さんは、一瞬驚きながらも「ありがとうございました~」と笑顔で言って、歌唱を終えたのでした。
言うまでもありません、僕はそのあと思いっきり怒られました。ミスを招いたのはわずかな油断。MDの中に「愛につつまれて フルコーラス」がトラック2、「愛につつまれて 2コーラス」がトラック3で入っていたのですが、その2と3を書き間違え、音響さんにトラック3と指示してしまったのです。
言い訳、無用です。
やってはいけないミスをしてしまい、怒られる前にすでに僕の覚悟は決まっていました。
「すいませんでした!」。とにかく必死に謝るしかありません。
「いい加減にしなさいよ!」と言われ、しばし硬直。ち~ん、という感じで足元の床を見続けるしかない僕でした。
だけど、今だから言いますね。怒られながらもじつは僕、腹の中でおかしさを抑えきれずにいたんです。だって、2コーラスということにどこかで気づいてもいいはずなのに、松前さんがお構いなしに歌っているんだもん。それが何だかおもしろくて、笑っちゃいけない、悪いなぁと思いながらもついクスクスと……。
なんてお調子者の僕なんでしょう。松前さん、ごめんなさい!
(文=藤井利香)
第34回はこちら
三山ひろしの生い立ちの記【連載34回】
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【収録曲】
「お岩木山」(三山ひろし, 2015)
「こころ酒」(藤あや子, 1995)※
「熊野灘」(鳥羽一郎, 1988)※
「浮草慕情」(松前ひろ子, 1982)※
「父娘(おやこ)」(門脇陸男,1990)※
「大阪夜曲」(三門忠司, 2005)※
「むらさき雨情」(藤あや子, 1995)
「男の港」(鳥羽一郎, 1986)
「終着駅は始発駅」(北島三郎, 1977)
「祝い船」(門脇陸男, 1982)
「これから峠」(門脇陸男, 1989)
「花街一代」(松前ひろ子, 1999)
「男の燈台」(三門忠司, 2006)
「仁義」(北島三郎, 1969)
「祝いしぐれ」(松前ひろ子,1990)
「男の路地裏」(三山ひろし, 2018)
全16曲/曲順未定 ( )内はオリジナル歌手名と、発売年。中村典正氏が「中村千里」、「山口ひろし」名で作曲した作品を含む。※は新録
2020年7月8日発売
三山ひろし
「【感謝盤】北のおんな町」
三山が情感たっぷりに歌い上げる「北のおんな町」に、新たに2曲のオリジナル曲を加えた感謝盤が登場した。「SATOUMI~幸せは、あさこいよさこい」は高知県の水族館、「足摺岬海洋館」が「SATOUMI」という愛称で7月にリニューアルオープンするのに合わせて作られた応援ソング。「ありんこ一匹」は“小さな一匹のありんこ”をモチーフに「みんなで汗をかいて、みんなで幸せをつかみたい」という思いを歌った人生演歌となっている。
Profile
三山ひろし(みやま・ひろし)
1980年9月17日、高知県生まれ。本名は恒石正彰。作曲家・中村典正氏のもとで修業し、2009年、「人恋酒場」でデビュー。音楽情報番組「あさうたワイド」(BS日テレ。毎週木曜日 午前5時~5時29分)では師匠・松前ひろ子とともに司会を務める。2020年7月8日に新曲「北のおんな町」の【感謝盤】をリリース。YouTubeの「ミイガンチャンネル」、「三山ひろし公式チャンネル」でも日々、ビタミンボイスを放出中。市川由紀乃との「除菌音頭 YouTubeチャンネル」も話題に。
INFORMATION
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