翠 千賀、新曲に込めた決意と新たな道

“声を楽しむ” 声楽家として、浜口庫之助作品を歌い継ぐ

 

「14歳の時、声楽家になるって決めました。小さい頃からずっとピアノを習っていたのですが、ひとりで練習していてふとした時に、“孤独だな”って。もっと音楽を楽しみたい! と感じて、ピアノはその後も続けていましたが“目指すは声楽家”と、 マリア・カラスさんをはじめとする、とにかく世界で活躍するオペラ歌手になりたい、とシフトチェンジしました」

屈託のない笑顔を見せながら、翠 千賀は自らの出発点を振り返った。

14歳で抱いた志を高く持ち続け、翠は名門・東京藝術大学へ進み、卒業後はイタリア・ミラノ音楽院へと留学した。イタリアで研鑽を積んだ後、帰国して新国立劇場での「Zaza」初演に主役として抜擢される。その舞台が、彼女にとって国内デビューでもあった。

その後も、まさに順風満帆にキャリアを積み活躍してきたが、2015年7月にテレビ東京系『THE カラオケ★バトル』へ出場したことは、音楽界でも話題となりひとつの大きな転機となった。

「オファーを受けたら、番組スタッフの方が『本当に出ていただけるんですか? オペラ歌手として、問題はないでしょうか?』と、逆に心配してくださって(笑)」

オペラ歌手がカラオケ番組で点数を競うなど、前代未聞のこと。そして翠は、初出場で見事優勝に輝き、その後も、100点満点を4度、6回の優勝を果たしている。声楽家・翠 千賀の面目躍如だ。

「番組に出場する時は、それこそ真剣勝負です。オペラ歌手の看板を背負って、ですからね。声楽家として、どんな歌でも私なりに調理して、絶対に100点取ると思って出演しています」

世間一般がイメージするオペラやクラシックの世界は、やはり敷居が高い。その世間からの高尚すぎるイメージを払拭し、翠は“音楽とは楽しむもの”であることを広めるため、そして“見せる歌”を届けることを目指して活動してきた。

「クラシックの世界では、お客様との距離が、(舞台の)物理的にも遠いんですね。お客様のマナーもできていらっしゃる。でも歌謡曲や演歌の世界は、グッと近くにお客様がいらっしゃって、客席での泣き笑い、皆さんの顔がよく見える。待っていてくださったことも、応援してくださる温かさも直接伝わってきます」

そんな翠が、8月5日に最新曲「僕の好きな秋」をリリースする。昭和を代表する名作詞・作曲家として活躍した、浜口庫之助が残した作品のカバーである。

「浜口先生の奥様、渚 まゆみさんに以前から懇意にしていただいていて、渚さんから『あなたに歌ってもらいたい歌』として、今回のお話をいただきました。本当にうれしかったです。ひとりの歌い手として、浜口先生の作品は歌い継いでいかなければという気持ちでレコーディングに臨みました」

今回リリースされるCDでは、トラック1にジャズテイストにアレンジが施された「僕の好きな秋」と、トラック4に同曲のクラシックバージョンが収録されている。

「ご自身では、どちらのトラックが好きですか?」と、ちょっと意地悪な質問をすると、しばらく考えぬいた末にこう答えてくれた。

「ふたつにひとつの選択なら……、トラック1です。翠 千賀は、こういう歌も歌えるんだということを知っていただければうれしいですね」

もちろん、どちらのトラックも、浜口作品に真摯に取り組んだ翠の全力のパフォーマンスを楽しむことができる。

インタビューの終盤、翠は自身の思いとしてこんな言葉を残した。

「オペラはヨーロッパ伝統の文化ですけれど、日本の歌曲にも伝統文化はあると思っています。ある時から『演歌はパッションだ!』って思うようになって、今では私はオペラと演歌を融合させた『オペンカ』の伝道師になりたいと思っているんです。ちょっとネーミングは変ですけれど、本気です(笑)」

“声を楽しむ”プロ、声楽家としての誇りを持ちながら、これからも彼女らしい新たな歌の道を切り開いていく。

※本文注 
マリア・カラス
(Maria Callas 1923年12月2日~1977年9月16日)
ニューヨークで生まれ、パリで没したギリシャ系アメリカ人のソプラノ歌手。今なお世界中で多くのファンが、その伝説的な舞台の数々を語り継ぐ世界最高のオペラ歌手。舞台においてその卓越した歌唱と心理描写、演技によって観衆を魅了した。数多くの作品が現在でもCDやBlu-rayで流通しており、YouTubeでも動画が公開されているので、ぜひお聴きいただきたい。


2020年8月5日発売
新たな夢への第一歩
翠 千賀「僕の好きな秋」

「僕の好きな秋」 
作詞・作曲/浜口庫之助 編曲/周防泰臣  
「もっとセレナーデ」 作詞/赤堀彰子・翠 千賀 作曲/後藤康二 編曲/周防泰臣  
「~たびだち~」 作詞・作曲/松永安優美 編曲/周防泰臣  
「僕の好きな秋」クラシカルバージョン  
徳間ジャパンコミュニケーションズ TKCA-91291 ¥1,227+税

2001年1月にリリースされた浜口庫之助作品集「北海道はオーケストラ 幸せの鐘」に収録されていた楽曲をジャズテイストにアレンジしてカバー。トラック4には同曲のクラシカルバージョンも収録している。「浜口先生の作品には小さい頃から慣れ親しんできましたが、この『僕の好きな秋』は、本当に日本の芸術、歌曲として残したいと思って歌わせていただきました。日本人の温かみを感じていただければと思います」(翠)。また、c/w「もっとセレナーデ」では赤堀彰子とともに初めて作詞に挑戦。昭和をイメージさせる切ない愛の物語作品に仕上がっている。

 

2001年1月にリリースされた浜口庫之助作品集「北海道はオーケストラ 幸せの鐘」

浜口庫之助夫人・渚 まゆみ氏より翠へのコメント

「翠 千賀さん、(僕)という男性の歌を、思いを込めて歌ってくれて、主人が口ずさんでるようで懐かしく思います。本来は声量も高音も飛びぬけているのに、この曲については、主人がよく言っていた『人の心に染み入るように』、さりげなくやさしく歌ってくれて涙が出ます」

 


 
Profile
翠 千賀
(みどり・ちか)
3月11日生まれ。東京藝術大学声楽科出身のオペラ歌手(ソプラノ)。東京藝大を卒業後、イタリア・ミラノ音楽院プロフェッショナルコースで学ぶ。留学中、ミラノにて「ラ・ボエーム」のミゼッタ役、アルクアート城でルイージ・イリッカ記念式典に招聘された。帰国後、新国立劇場でのルッジェーロ・レオンカヴァッロ作曲「Zaza」日本初演で主役ザザ役を演じる。数多くの名作・話題作の舞台に立ち、オペラ界屈指の実力者と認められる。2017年3月「耀宴」にて徳間ジャパンからCDデビュー。二期会会員。

YouTube 翠千賀チャンネル
Midori Chika Opera OFFICIAL

この4月からYouTubeで公式チャンネルを立ち上げた翠 千賀。洋楽ポップスナンバーの弾き語りでは、本業のオペラ歌手を垣間見ることができ、観ごたえ聴ごたえ十分なチャンネルだ。楽曲のリクエストも受け付けているので、ぜひチャンネル登録をして楽しみたい。

【WEB情報】

 

関連記事一覧