
2021年第2弾! 三山ひろしが「浮世傘」で光を照らす
2021年1月に発売した「谺-こだま」に続き、今年の第二弾として、三山ひろしが「浮世傘」をリリースした。その曲調にどことなく昭和の懐かしさが漂う、これまでの作品とは異なるタイプの本格演歌だが、1年の間にシングル2作品というのは、デビュー3年目にあたる2011年の「ダンチョネ港町」「女に生まれて」以来のこと。多くはその年の勝負曲を、後日あらたにタイプの異なるカップリング曲と組み合わせ、新装版として発表することでファンを楽しませてきたが、「ファンの方にとっては、やはり毎回新しい曲の入ったCDを手にできるほうがよりうれしいのではないか」とかねてより考えていたことから、今回の実現に至ったという。
みんな悩み、もがきながら生きている
ーー今年は「谺-こだま」とともに、勝負曲が2曲あるわけですね。
三山 僕にとってもとても歌い甲斐がありますし、ファンの方にも喜んでいただけると思っています。今年もNHK紅白歌合戦に出場できれば、さて、どちらを歌うべきか。ぜひ、お好きな方を推していただきたいですね。
ーー「浮世傘」は、この世に生きづらさを感じながらも、渋く、カッコよく生きる男性の姿を描いた楽曲です。
三山 曲をいただいたときに感じたのは、「傷だらけの人生」(鶴田浩二)のような世界観だなと。一昔前の時代背景で、やくざではないけれども、日陰で生きる渡世人の心情を描いています。物悲しさを漂わせながら心の葛藤を表現しているので、晴れ晴れとした前向きな内容が多かったこれまでの曲とは作風がかなり異なります。
「右を立てれば 左がへむ とかくこの世は 住みにくい」という(3番の)歌詞に見られるように、現代はそれぞれの個性が尊重される多様性の時代になりましたが、かつては異端児と呼ばれ生きづらさを感じる人は多かったと思います。ただ、人と人との関係で悩まされるのは今も大きくは変わらず、世の中にはいろいろな立場の人がいて、みんな悩み、もがきながら生きています。そこにわずかながらの光を照らすような、そんな作品ではないかなと僕なりに考えています。
ーー恩師・中村典正先生が亡くなられて間もなく3年。中村作品から離れて2曲目となりますが、今回、作曲は影山時則先生です。
三山 初めて影山先生に作品をお願いしました。僕なりに準備はしていったのですが、中村先生とは違うメロディーの運ばせ方だったので、レコーディングのときはそれをきちんとすり合わせる作業を行いました。戸惑いもありましたが、メロディーの運びによって声の出し方も変わってきます。それによって苦しみといった感情がきちんと表現できるので、すごく綿密に曲がつくられているんだなと実感しましたね。王道演歌というよりは、どこか昔気質の懐かしさが漂い、流行歌のテイストも少し入っている、ちょっと珍しい曲だと思います。
そして、歌詞は戸惑い、揺れる心情を描き、どうしたものかと答えなきまま終わっています。僕自身、何か問題があっても人に頼らず自分で解決してしまうタイプなので、主人公の男性とはちょっと違う。だから歌うときは役者に徹し、イメージを膨らませながら歌うことを心掛けています。ミュージックビデオでも着流しを着て番傘を持ち、境内を歩いているシーンから始まるんです。そこに合口を持った刺客が現われるという、完全なるお芝居の世界。主人公になり切って歌っております。
カップリングには「風の旅人」と「せられん」
ーーカップリングの「風の旅人」は爽やかで、作詞は演出家としても知られる宮下康仁先生です。CMとして流れたらいいのにと思ってしまいます。
三山 僕もそう思います(笑)。今にも自転車で軽快に走り出しそうなイメージですね。四季折々の楽しい歌詞で、定年後の夫婦二人の穏やかな風景も目に浮かんできます。こんなご時世ですが、「よし、旅に出よう!」と思わせるような曲なので、四国を旅するようなCMになったらいいですね~。僕もこの曲に乗って、日本の離島を巡ってみたいです(笑)。
レコーディングは楽しかったですね。若返った気分で歌っています。ただ難しいのが、歌い出しからサビまでのところ。キーがもっとも高い部分なんです。思わず力んだり、唸ったりしてしまいそうなので、カラオケで歌うときは肩の力を抜いて、ぜひ爽やかに歌っていただければと思います。
ーーもう1曲の「せられん」は、「せられん せられん 言うたろう」というサビのフレーズが実にキャッチー。「せられん」とは「~しちゃいけない」という意味の土佐弁だそうですが、1979年にラジオから火がつき、大流行したんですね。三山さんは、2020年10月に高知県民文化ホールで開催されたコンサートでも披露されていますね。
三山 「せられん」は40歳以上の高知県民なら誰でも知っている、地元で長く親しまれてきた曲です。僕が生まれるちょうど1年前、当時悲しいかな、高知県って飲酒運転が非常に多かったんですね。それを何とかしなければということでRKCラジオが企画し、カラオケ教室を経営されている大野研二(作家名は大野けんじ)さんが作詞・作曲されました。歌も歌って、地元で大ヒットしたんです。この頃、美空ひばりさんの「夢追い酒」もヒットしていたんですが、高知のレコードショップではそれよりも「せられん」の売り上げのほうが上だったくらいです。完全にガラパゴス化していましたが(笑)、ラジオからいつも流れていて、僕もこれを聴いて育ちました。悪いことをしたら母やおばあちゃんに、「せられん、せられん言うたろう!」って怒られながら(笑)。
ーーカバーに至ったのは、高知の魅力を発信している地元で人気の土佐かつおさんとカツオ人間さんがきっかけですよね。この曲の情報を流したら見事にバズって、もっと多くの人に聴いてもらいたいと三山さんにオファーが来た。
三山 そうなんです。今「せられん」ブームが来ていると、ゆるキャラの「カツオ人間」から依頼されてカバーすることになりました。ネオクラシックみたいで懐かしいと、ネット上ではかなり盛り上がっています。コンサートには「カツオ人間」も応援に来てくれましたが、大野さんも来て歌唱指導をしてくださったんです。原曲は大野さんが若いときだったこともあり、僕のキーよりも半音か1音高いんです。なので今回歌うときは音を下げ、ロック系の歌なので思い切りシャウトして歌っています!
ーーアレンジは、原曲と変えている部分があるんでしょうか?
三山 アコーディオン、シンセサイザーなどの音を足して少し豪華にしています。でも、全体的なアレンジは変えていないですね。曲の途中にセリフが入っていますが、原曲はそれを近所のおじちゃんとおばちゃんが担当しているんですよ。これでヒットしたんだからすごいですよね。僕のカバーでは、男性パート、女性パート、セリフもすべて僕です。
ーー「せられん」が、今年の流行語大賞にノミネートされたらおもしろいですね!
三山 そうなったらいいですね。「せられん せられん 言うたろう」のフレーズは、大野さん曰く、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」(1975年発売)がヒントになったそうです。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドさんの「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」を聴いて、インスピレーションが沸いたと。時代背景がわかりますね。今回CDに収録することで、また多くの人に親しまれたらいいなと思っています。責任重大です(笑)。
ーーYouTubeですでに動画が公開されているので、こちらも多くの方に見てもらいたいですね。そして今回の3曲に、「谺-こだま」とカップリングの「一献歌」と合わせると、2021年は三山さんの楽曲を計5曲楽しめることになりますね。
三山 2枚のCDを通して聴けば、いろいろなタイプの曲が入っていて、ちょっとしたミニコンサートのような気分で楽しめるのではないかなと思います。こんなご時世だからこそ、歌の力をあらためて感じてもらいたい。そして、少しでも皆様の心の健康につながればうれしいですね。
(文=藤井利香)
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2021年7月28日発売
2021年の第2弾シングル
三山ひろし「浮世傘」

「浮世傘」
作詞/いではく 作曲/影山時則 編曲/南郷達也
c/w「風の旅人」
作詞/宮下康仁 作曲/大谷明裕 編曲/竹内弘一
c/w「せられん」
作詞/大野けんじ 作曲/大野けんじ 編曲/矢田部正
日本クラウン CRCN-8417 ¥1,350(税込)
「浮世傘」は、その曲調にどことなく昭和の懐かしさが漂う、これまでの作品とは異なるタイプの本格演歌。カップリングには、三山の歌声が心地よく届き、さわやかなイメージで思わず口ずさみたくなるような「風の旅人」を収録した。さらに、かつて高知県で大流行した「せられん」をカバー。「せられん」とは「~しちゃいけない」という意味の土佐弁で、40年前の流行当時を知る人には懐かしさを、また初めて聴く人にもインパクトのある歌詞と曲調で、元気をもらえそうな楽曲だ
三山ひろし『新歌舞伎座コンサート ~みやまつり2021~』DVD同時発売

日本クラウン CRBN-98 ¥4,800(税込)
大阪・新歌舞伎座で今年3月に行われた特別講演の模様を収録した映像作品。全23曲で、舞台後半は演技も交えた長編歌謡浪曲を、計4作(「ああ松の廊下」「元禄花の兄弟 赤垣源蔵」「その夜の上杉綱紀」「元禄名槍譜 俵星玄蕃」)を披露している。自ら設定した高いハードルを見事に越え、「半歩でも前へ」を自認する三山ひろしの意欲溢れる舞台映像を楽しめる。
「ここ数年、演歌・歌謡界を代表する作家の先生方が亡くなられています。一部では、『今日でお別れ』(作詞/なかにし礼)、『喝采』(作曲/中村泰士)など、そんな先生方へのリスペクトを込めて歌わせていただきました。今年は師匠の三回忌にもあたりますので、もちろんオリジナル曲も入っています。
二部では、「ひとり忠臣蔵」と題してMCを一切挟まず、長編歌謡浪曲を4曲立て続けに歌うという、かなりハイレベルな挑戦をしました。4曲の中でも「その夜の上杉綱紀」はかねてからアルバムに入れたいと思っていた1曲です。これは上杉家に養子に出されていた吉良上野介の嫡男の話で、討ち入りの報にふれるも、上杉家の人間ということで、父親のみならず自分の息子も助けに行くことができない。「忠臣蔵」のいわばサイドストーリー的な内容です。討ち入るほうにも、討ち入られるほうにも言葉にできない苦しみと悲しみがある。仇討の陰で起きていたこうした史実を、ぜひ伝えたいとかねがね思っていました。おかげさまでお客様には好評で、このDVDの中でも目玉の作品となっています。
たった5日間、7ステージでしたが、濃密でやり切った感のある公演でした。人数制限での公演でしたので、会場にお越しいただけなかった方もいらっしゃるのではないでしょうか。このDVDで、ぜひ堪能していただきたいと思います」
三山ひろし『新歌舞伎座コンサート ~みやまつり2021~』
収録曲
1.北のおんな町
2.女に生まれて
3.男のうそ
4.人恋酒場
5.喝采
6.今日でお別れ
7.また逢う日まで
8.祝い船
9.祝いしぐれ
10.むらさき雨情
11.男の港
12.仁義
13.その名もコノハナサクヤヒメ
14.香水
15.お岩木山
16.四万十川
17.谺-こだま
18.長編歌謡浪曲 ああ松の廊下
19.ころは元禄十五年
20.元禄男の友情 立花左近
21.長編歌謡浪曲 元禄花の兄弟 赤垣源蔵
22.長編歌謡浪曲 その夜の上杉綱憲
23.長編歌謡浪曲 元禄名槍譜 俵星玄蕃