代表曲の予感~井上由美子が「野付半島」で大きな一歩を!~

北海道の東部、根室海峡に突き出た半島がある。長年、砂が堆積してできた半島で、干潟や原生林、湿原地帯など多様な自然環境を有している。半島の名前は野付半島。しかし年々、地盤が沈下している影響から海水で原生林が枯れ、殺伐とした姿も見せる。

その風景から「この世の果て」「この世の終わり」と呼ばれるこの地に、愛をなくしたひとりの女性がやってくる。生きる気力をなくしているが、曇り空に青空を探してもいる。

井上由美子の「野付半島」(2019年11月発売)は作曲家の徳久広司氏が北の半島をテーマに曲を作った。そこに作詞家の円 香乃氏が野付半島を舞台に物語を描いた。井上の代表曲となる予感がする。

レコーディングを終えて間もない頃、円先生と北海道の小樽へ遊びに行きました。いっしょにご飯を食べたり、鰊(にしん)御殿など観光地を訪れたりしました。

ちょうど「野付半島」のトラックダウン(※)が終わったばかりだったので、先生から「もう聴いた?」って聞かれました。

「まだなんです。データは届いたんですが、聴き方がわからなくて」

「じゃあ、いっしょに聴こうか」

先生とふたりで海辺まで行って、先生の小さなタブレットで「野付半島」を初めて聴きました。ふたりして耳を寄せ合って、曲が終わるまで無言で聴きました。波の音や鳥の鳴き声も自然に加わって感動しました。その場の雰囲気、その時の心情にピタっと合っていたんです。本当にいい曲、来年(2020年)の勝負曲ができたなと思いました。

野付半島には行ったことがありません。でも、「この世の果てのようなところ」とうかがって、灰色のイメージがあります。小樽の海辺で感動したので、ご当地をとくに意識しなくてもいいのかなと思いますが、もし、野付半島で聴いたら、どれほど感動するでしょうね。いつか訪れてみたいですね。

※別々に録音された歌や楽器の演奏をひとつのデータにすること。

涙もろくて笑顔が魅力の井上は、中学3年生の時、歌手を目指して大阪から上京したが、夢だけを追い続ける日々が延々と続いていた。

そんな2003年、文化放送の「走れ! 歌謡曲」が番組誕生35周年を記念して、演歌歌手オーディションを行った。井上は一縷の望みをかけてこのオーディションに挑戦する。だが、この時点で20代の半ばを過ぎており、年齢的には募集条件を超えていた。

「正直に申告したのがよかった。審査を務める、あるディレクターの方が『逆におもしろい』と推してくださったんです。もちろん、これは後で知ったことですが、このディレクターのひと言がなかったら、私は書類選考で落とされていました」

グランプリを獲得した井上は2004年、「恋の糸ぐるま」でデビュー。念願の歌手となれた。「野付半島」は21作目となる。

小学生の頃の作文に「人に元気と、勇気と、生きる希望を与えられる歌手になりたい」って書いていました。恥ずかしいくらいに大げさですけど(笑)、子どもの頃からそう考えていて、今もまったく変わっていません。「歌を聴いて元気になりました」と言ってもらえるのがいちばんうれしい。出会う人みんなに、力が湧いてくるような思いを与えられる歌手になりたいんです。演歌だけにこだわっているわけではなくて、「わかるわかる」「こう感じるのは、自分だけじゃないんだな」って共感してもらえる歌、メッセージ性の強い歌ならなんでも歌っていきたいと思っています。

でも、今は新曲「野付半島」をヒットさせて、恩返ししたいという思いがより一層強くなっています。じつは今年、これまでずっと応援してくださった、あるファンの方がお亡くなりになりました。ショックでした。またデビュー前のオーディションで私を選んでくださった恩人のディレクターが入院されて、生死をさまようようなこともありました。

夢を実現した私ですが、ずっとやり残し続けてきたことがあるとしたら、それは恩返しです。

「もう少し待っててね。きっとがんばるから」

そう言い続けてきましたが、「急がなくちゃ!」という気持ちです。これまでの自分に対する後悔と焦りの思いでいっぱいです。〝井上由美子はここまで成長できました〟というのを見せないまま終われません。だから、必ず恩を返すぞと、新曲「野付半島」には気合いが入っています。来年の私はワンステップといわず、ツーステップ成長したいですね!!

 

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2019年11月27日発売
井上由美子「野付半島」
井上由美子

「野付半島」
作詞/円 香乃 作曲/徳久広司 編曲/伊戸のりお
c/w「志摩の月」
作詞/馬場登代光 作曲/三好和幸 編曲/伊戸のりお
c/w「高梁慕情」
作詞/伊藤謙介 作曲/聖川 湧 編曲/南郷達也
キングレコード KICM-30955 ¥1,364+税

「野付半島」は井上由美子が2019年デビュー15周年を経て、新たなる大きな一歩を踏み出す自信作。北の最果て、粉雪の舞う冬の海にたたずむ女性の哀しい恋物語をドラマティックに描いたスケールの大きな作品。カップリングの「志摩の月」は離れて暮らす男性を待ちわびる女性の気持ちを歌う。「高梁慕情(たかはしぼじょう)」は2012年にリリースした「恋の川」のカップリング曲。井上は、岡山県高梁市の観光大使「備中高梁“笑顔で”伝えたいし!」を務めるが、2019年は高梁150年を記念する年でもあり、盛り上げたいという地元の要請に応え再収録した。


profile
井上由美子
(いのうえ・ゆみこ)
9月10日、大阪府生まれ。中味は生粋の大阪人だが、歌手を目指して上京。高校からは東京の住人へ。歌手への道はなかなか開けなかったが、2003年、文化放送「走れ! 歌謡曲」35周年記念演歌歌手オーディションで優勝し、2004年、「恋の糸ぐるま」でデビュー。2009年1月、初めての単独コンサートを東京・新宿区の四谷区民ホールで行う。また同年、ファンクラブ「ゆみっこ広場」を開設。2011年11月、同じキングレコード所属の永井裕子と女性演歌デュオ「なでしこ姉妹」を結成し、デビューシングル「望郷おんな節 」をリリース。2019年11月、歌謡テイストの新機軸となる「野付半島」に挑戦し、2021年3月、その続編とも言える「オロロン海道」を発売。好きな言葉は「一生懸命」。口癖は「アホか!」だが、大阪人の井上は「挨拶代わりみたいなモンだと思っております」とのこと。「どんな時でも人を思いやる優しい心を忘れずに、体は小さいけど、精いっぱいの力で一生懸命歌います!」(井上)。

井上由美子 公式HP
井上由美子 公式ブログ「井上由美子のなんでやねん!?」
井上由美子 公式ちゃんねる「ゆみっこ広場」

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