小桜舞子の優しい歌声に包まれて〜「お帰りなさい」〜
小桜舞子が新曲「お帰りなさい」をリリースした。麻 こよみと弦 哲也という豪華作家陣が、小桜のために熱い思いを込めて書き下ろした意欲作。
自粛期間中は、散歩がてら海へ行き発声練習をしていたという小桜。そんな生活を自分なりに楽しんでいたつもりだったのに、久しぶりにカラオケに行き自分の歌を歌った時は涙が流れたと話す。人とのつながり、歌えることのありがたさが身に沁みた2020年。どんな気持ちで新曲のレコーディングに臨んだのか、今の思いを聞いた。
「こんな時代だからこそ、人とのつながりや歌えることのありがたさを強く感じています」
――新曲「お帰りなさい」のリリース、おめでとうございます。小桜さんの歌手生活20周年を飾る記念曲ですね。どんな曲でしょうか。
小桜 イントロにポルトガルギターが使われていて、演歌なのにすごくおしゃれな“ヨーロピアン演歌”です。これまでの私の作品はいつもマイナーで、ポスターも悲しげな表情が多かったから、皆さんに「舞ちゃんは笑顔が素敵なのに、どうしてポスターは笑っていないの」って、よく言われていたんですよ。それで新曲は明るい曲にしようと書いていただいたのが、「お帰りなさい」と「菜の花しぐれ」。あとから聞いた話によると、最初「お帰りなさい」はカップリング候補で、カップリングの「菜の花しぐれ」の方がA面になる予定だったそうです。キー合わせで歌ったら、どちらの曲も声がすごく良いということになって、結果として「お帰りなさい」がÅ面になりました。
――どちらも、女性の心情がリアルに描かれている曲ですよね。
小桜 作詞の麻 こよみ先生と作曲の弦 哲也先生には、昨年12月に発売した「度会橋(わたらいばし)」で初めてお世話になったのですが、ファンの皆さんからの反応が今まで以上に良かったんですね。これまでの曲の歌詞は、男性の先生に作っていただいていたので、男性の理想像としての女性が描かれていました。麻先生が書かれた「度会橋」は、自分から男性に会いに行くような、ただ耐え忍ぶだけではないアクティブな女性像なんです。そこが、とくに女性のカラオケファンの皆さんに共感していただけたようです。今回の「お帰りなさい」も女性目線の作品で、歌謡曲というかフォークソングのような曲調なので、感想をいただくのが楽しみですね。
――レコーディングは、どんな感じでしたか。
小桜 今回は、仮歌とレコーディングを同じ日に録ったんですが、2曲を3回ずつ歌って、一時間以内にとてもスムーズに終わってしまいました。“きっとこの後歌い直しがあるんだろうな”くらいの、軽い気持ちで歌っていたのが良かったのかもしれません。あまりにも早く終わったことで、私はかえって不安になってしまって、「皆さん、今日は早く帰りたいんですか?」って聞いてしまったくらい(笑)。それと「お帰りなさい」の主人公のお相手が、“どこへ行っていたのか”という話題で盛り上がりました。「他の女性のところに行っていた」という人、「遠い海へ漁に行っていたんじゃないか」「修行の旅に出ていた」という人もいました。私は「刑務所に入っていたんじゃないか」と思っていました。
――「お帰りなさい」の解釈は、人それぞれありそうですね。
小桜 弦先生が「俺、最近奥さんから、お帰りなさいって言われていないよ」とか、「男は絶対に3番の“あやまらないで、もういいの”、これがいいんだよな」とおっしゃって、周りから「先生、何かあったんですか?」って突っ込まれたり(笑)。笑いの絶えないレコーディングでしたね。あそこまでハイテンションな弦先生、初めて見ました! 麻先生は「きっと一度許して“もう帰ってきなさい”って言ったとしても、ずっと一緒に生活していて、その人がリビングに寝転がってテレビ観てたら、後ろから殴りたくなるよね」って(笑)。後日、麻先生から「歌のタイトルだけで、あんなに盛り上がるとは思いませんでした」ってメールをいただきました。
――この曲をカラオケで歌う時のコツを教えてください。
小桜 メロディーが寂しい感じなので、そこに引きずられないように。ずっと待ち続けた相手が目の前にいて、その人に向かって気持ちを伝えているということを意識して……、これは、すごい深い愛情ですよね。「お帰りなさい」のところも、ただ声を張るんじゃなくて、優しく包み込むイメージで。イメージすることってとても大切です、表情が変わるから。表情が変わるということは、歌声も変わってくるんです。私はレコーディングで、“あなた会えてうれしいわ”だけじゃなくて、愛しているけど殺したいくらいの愛憎があってもいいかな、と思いながら歌ってみました。
――今年は予想もできない深刻なコロナ禍に見舞われました。実際に人と会って話をしたり笑ったりするような機会が、少なかったですね。自粛期間中はどうしていらっしゃいましたか?
小桜 自宅でパンを作ったり、海まで散歩に行って発声練習をしたり、自粛期間を楽しんではいました。でも今まで自分が当たり前だと思っていたこと、たとえば人と会うこととか、お客様の前で歌うことが、いかにありがたいことなのかということが良くわかったし、人恋しくなりましたね。先日、久しぶりのテレビ出演で、歌手の皆さんの最新の曲を楽屋のモニターでとはいえ、生で聴かせていただきました。ソーシャルディスタンスを保ちながらでも、話をさせていただけることがいかに楽しいか。そういうことを強く感じられるようになって、それが良い具合に歌にも生きていると思います。だから、私にとっては必要な時間だったのだと、ポジティブに捉えるようにしています。
――今年一年を振り返えられて、いかがですか。また、来年の抱負をぜひ聞かせてください。
小桜 いつもだったら新曲をリリースさせていただいてキャンペーンが始まると、睡眠時間が短くなるんです。でも、今年はゆっくりと睡眠を取れる生活を送ることができました。人間は群れで生活するもので、ひとりじゃ本当に何もできないんですよね。ひとりで歌うことも、家族で生活することも、それはそれで楽しいんですけど、外に出て行くって本当に大事だなということ強く感じた一年でした。新曲「お帰りなさい」は日常を切り取ったような作品なので、いい意味で人恋しくなった経験が生かされたと思います。来年は、世の中がどうなるかわかりませんが、「お帰りなさい」を日本全国でぜひ生で聴いてもらいたいですね。
(文=夏見幸恵)
2020年12月16日発売
切なく深い愛の歌
小桜舞子「お帰りなさい」
(DVD付)
「お帰りなさい」は、待ち続けた愛する人を優しく迎え入れる女性の気持ちを歌った作品。前作「度会橋(わたらいばし)」に続いて作詞を麻 こよみ、作曲を弦 哲也が担当し、大人の色香の中に少女のような可愛らしさが残る女性像が描かれている。ポルトガルギターが印象的なイントロではじまり、情感たっぷりに歌い上げる小桜の歌声が、小説やドラマのワンシーンのように物語を紡ぐ。カップリングの「菜の花しぐれ」は、小桜の笑顔にぴったりの明るい曲に仕上がった。
Profile
小桜舞子(こざくら・まいこ)
1978年6月6日、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。『NHK のど自慢』グランドチャンピオン大会出場がきっかけとなり、2001年「恋する城下町」でデビュー。2002年に「恋する城下町」の舞台となった秋田県角館町の“ふるさと観光大使”に任命される。2011年「鎌足桜」をリリース。鎌足桜が千葉県木更津市指定文化財であることから、木更津市観光大使にも任命され、さらに秋田県仙北市観光大使にも任命されている。柔らかなキャラクターと高い歌唱力でカラオケファンの心を掴み、来年は節目の20周年を迎える。マイブームはペット(ホーランドロップというたれ耳の小型のウサギ)の卯之吉と過ごす癒やしのひと時。