【連載】師匠と僕 村木 弾 第6回

「自分自身に乾杯!」

巨匠、故・船村徹先生の最後の内弟子である僕が、師匠との思い出の日々を紐解く。第6回目、ついにデビューが決まり、初めてデビュー曲の書かれた五線紙を手渡された。

 

2015年5月中旬に舟木一夫さんと会ってから、約9カ月後の翌年2月17日に、僕はデビューを果たした。つまりこんなに短い間に、所属レコード会社、デビュー曲、衣装などを決めていくこととなった。

ご自身の仕事だけでもとても忙しい舟木さんに、打ち合わせのために何度も時間を作っていただき、8月が終わる頃には、デビュー曲のだいたいの形が出来上がった。

肝心の芸名についてだが、船村 徹先生が姓名判断の本を書庫から引っ張り出して、さまざまな候補を考えてくれた。そして最終的に、“船村 徹”先生の“村”と“舟木一夫”さんの“木”、そして僕の本名である“弾”で、“村木 弾”という芸名を、先生と舟木さんが決めてくれた。船村門下生として、先生からひと文字を継承できたことは光栄なことであり、また、大先輩の舟木さんからもひと文字いただけたことを大変うれしく思っている。

こうやって慌ただしく月日が過ぎ、楽想館の木々たちが一斉に紅葉し始めた頃のこと。いつものように夕食を取っていると、先生がひと言、「ついさっき、曲ができたゾ」。

先生の言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。先生は、いつも大切なことを前置きなく、いきなり言うのだ。デビューするという話をされたのも、舟木さんと会食する少し前、東京から栃木に帰るために高速道路を走っていた車の中だった。

「君もそろそろデビューするか…」

何気ない日時の中で、大切なことをつぶやくように語りかけるのが、“船村流”なのだ。

「曲ができたゾ」と言われた時は、あまりに突然のことなので、短いお礼の返事しかできなかった。こんな僕を見て、先生が笑っていたことを覚えている。

音符が書かれた五線紙を先生から受け取り、これがデビュー曲なのだと飛び上がるほどうれしかった。一方で、なかなか実感が湧いてこなかった。

食事が終わって先生が休まれた後、何度もその五線紙をながめた。テーブルの上に並べてみたり、手に取ってみたり…。風呂から上がって、譜面がちゃんとあるかを確認したり。とにかくうれしくて落ち着かなかった。

この日、ひさびさに秋田の実家に電話を入れ、両親にデビューの報告をした。両親は電話越しに泣いて喜んでくれた。その後、兄弟子たちにも連絡を入れ、お祝いの言葉をかけてもらった。

この日は、いつもより少し遅くまで6号室で飲み、自分自身に乾杯した。

2015年秋、「船村徹同門会」にて。デビューすることを紹介していただいた

 

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船村 徹氏
昭和7年、栃木県船生村生まれ。昭和24年、東洋音楽学校(現東京音楽大学)ではピアノ科に学ぶ。昭和30年、春日八郎のデビュー作「別れの一本杉」で作曲家デビュー。その後、数々の名曲を世に送り出し、作品数は約5000曲以上とも言われる。歌謡曲の作曲家として初めて文化勲章を受章。2017年〈平成29年〉2月16日永眠。

 

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酒場のギター演歌で勝負!
村木 弾「ほろろん演歌」

村木弾ほろろん演歌

「ほろろん演歌」
作詞/菅麻貴子 作曲/徳久広司 編曲/杉村俊博
c/w「男さすらい」
作詞/高田ひろお 作曲/徳久広司 編曲/杉村俊博
日本コロムビア COCA-17784 ¥1,227+税

「ほろろん演歌」は“望郷”と“酒”がテーマ。過去5作品とは異なる、酒場のギター演歌と言える作品。路地裏の酒場に昭和のギターの音色が流れるなか、都会暮らしに慣れても、時には故郷(くに)が恋しいくなる主人公の気持ちを歌っている。カップリング曲の「男さすらい」は、高田ひろお氏が山でも海でもなく、空をテーマに四行詩を書き上げ、徳久広司氏が三拍子のメロディーをつけた。雄大なメロディーに乗せて男の生き様を表現している。


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◆設立日:2018年4月18日(水)
・入会金不要
・年会費2,000円(税込) 毎年期間4月1日~3月31日
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私設「村木弾ファンクラプ」(弾む会)・事務局
TEL 090-8101-8196
〒256-0812神奈川県小田原市国府津2-2-3
萩原保子




Profile
村木 弾(むらき・だん)
1980年秋田県生まれ。鳶職、現場監督の仕事に従事していたが、2003年、歌手を目指して故・船村徹氏の最後の内弟子となる。2016年に、作詞&プロデュース・舟木一夫、作曲・船村氏による「ござる〜GOZARU〜」でデビュー。

日本コロムビア 村木弾ページ
村木弾 公式Twitter