
バースデーライブに煌めくマーメイド。ハン・ジナが“万照バンド”と紡いだ「愛のかけら」と感謝の歌声
2026年8月2日、都心の最高気温は34度を超え、まとわりつくような湿気が街を覆っていた。そんな茹だるような暑さを逃れ、辿り着いたのは東京・港区のマリーグラン赤坂。一歩足を踏み入れれば、そこは白を基調とした清らかな別世界。吹き抜けの天井から夏の陽光が燦々と降り注ぎ、ステージのブルーのモザイク柄が涼やかな海を思わせる。

8月5日に誕生日を控えたハン・ジナの恒例のバースデーライブだ。今年は、サックス奏者・野々田万照率いる「万照バンド」をバックに、ハスキーな歌声と軽妙なトーク、そして自ら筆を執った最新曲を携えて、彼女は光の階段から舞い降りた。
夜空をまとったマーメイド、光の階段から降臨
哀愁を帯びた、しかし情熱的なラテンのリズムが静かな空間に響き渡る。松任谷由実のカバー「真夏の夜の夢」のイントロだ。観客の視線が2階の階段上へと吸い寄せられる。そこに現れたのは、夜空を切り取ったかのような黒基調に、無数の宝石が煌めくマーメイドドレスをまとったハン・ジナだった。


一歩、また一歩と、歌いながら階段を下りてくるその姿は、まさに地上に降り立った人魚そのもの。客席から「ハンちゃん!」と熱い声援が飛ぶと、彼女はいつもの飾り気のない笑顔で応えた。
「ようこそ、ハン・ジナのバースデーライブにお越しいただきました。皆様にお会いできるのが楽しみで、昨日は……夜しか寝られませんでした(笑)」


お決まりのジョークで会場の緊張を一気に解きほぐす。この親しみやすさこそが彼女の魅力だ。「今日は私の声がより一層うまく聴こえるように、生バンドでお届けします。でも、なぜ“生”バンドって言うんでしょうね。バンドじゃダメなのかしら?」と、またひと笑い。


第1部は誰もがよく知る名曲のカバーで構成された。楽曲への想いや近況を報告しながら、天童よしみの「美しい昔」などを歌っていくジナ。高橋真梨子のバックで長年サックスを吹いている野々田万照にちなんだ「桃色吐息」では、ハスキーで奥行きのある歌声が、会場を異国情緒豊かな色彩で染め上げた。

また、派手な衣装でステージを盛り立てる野々田が「ジナさんと紅白に出たい」とリップサービスを贈ると、「嘘つき(笑)」と即座に否定しつつも、深々と「ありがとうございます」と返したジナ。8月5日に誕生日を迎える彼女にとって、その言葉は冗談半分であっても、歌手として心に秘め続けている情熱の灯火に触れるものだったに違いない。

「安否確認」は愛の言葉。ファンと歩む至福のひととき
前半に準備したカバー曲を歌い終えた時だった。「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」の音楽とともに、バースデーケーキがステージに運ばれてきた。会場全体でハン・ジナの誕生日を祝うと、彼女はファンの笑顔に囲まれてケーキのロウソクを吹き消した。


「私のライブは“安否確認”ライブです」
そんな毒気のあるユーモアを振りまきつつ、「お久しぶりね」「魅せられて」など昭和のヒット曲をメドレーで歌いながら、客席をラウンドしていく。一人ひとりの顔を確かめるように歌うジナの姿は、単なる歌手とファンの関係を超えた、家族のような温かさに満ちていた。
歌手・ハン・ジナ、そして作家「白空 彩」が描く世界
衣装を変えてのライブ後半はカラオケの人気曲でもあるオリジナル曲で構成。ジナはシルバーのスパンコールがゴージャスに縫い込まれたロングドレスに身を包み、再び客席から登場した。


韓国・ソウル出身。目鼻立ちのくっきりした韓流美人であり、ソウル漢城大学経済学部卒という知性も併せ持つ。しかし、彼女が選んだのは、面白くない真実よりも面白い嘘・誇張で人を喜ばせるエンターテイナーの道、もしくはサービス精神か。
2008年のメジャーデビュー曲「悲しみの向こう側」を披露する場面では、「昔は本名のハン・ボクスンという名前でした。でも、男のような名前なので、ある日、案内に従って楽屋に入ったら男性歌手の楽屋でした(苦笑)。それで名前を“ハン・ジナ”に変えました」と、笑わせる。

だが、作品のイントロが流れると瞬時に「歌手 ハン・ジナ」の顔に戻る。高畠じゅん子氏の作詩家生活35周年記念曲ともなった「悲しみの向こう側」から、インディーズ時代からカラオケファンに愛され続ける「窓」、25周年記念曲「天窓~愛という孤独~」など、一曲ごとに刻まれてきた、切なくも力強い女性の心情が熟成されたワインのように会場を満たしていく。また、「二人だけのカルナバル」といったアップテンポの作品では、観客もスタンディングで盛り上がる。

「万照バンド」との贅沢な共演は今回、とくに注目だった。野々田のサックスは、ある時は彼女のハスキーな吐息に寄り添うように優しく、またある時は彼女が歌い上げる情念を煽るように咽び泣くと、“ハン・ジナ”という楽器の魅力を最大限に引き出し、一曲一曲をより立体的で、奥行きのあるドラマへと昇華させていた。


ジナが「酸欠になりませんか(笑)」と、野々田に問いかける場面もあったが、彼女自身がいちばん、この日のライブがいつもとは違うと感じていたことだろう。


そして、ライブはクライマックスへ。 「残り2曲となりました」 。その言葉に続いて紹介されたのは、2025年に発表した最新曲。作家名「白空 彩(はくあ あや)」として、ジナ自身が初めて作詩・作曲に挑んだ作品だ。「空の上に、自分だけの豊かな世界を彩って描きたい」――そんな願いを込めたペンネームだ。
まずはカップリング曲「そして今は」を披露。冷たい秋風の面影を追うような繊細なメロディーが、シンガーソングライターとしての彼女の感性を浮き彫りにする。

そして本編ラストは「愛のかけら」だった。洋楽テイストのドラマチックな旋律に乗せて、雨の降る夜に置き去りにされた女性の孤独を歌い上げる。
自ら生み出した言葉だからこそ、その一音一音に宿る体温はより高く、聴き手の胸に深く突き刺さる。吹き抜けの天井から降り注ぐ真夏の強い光を浴びながら、孤独で冷たい雨の歌を聴く。その不思議なギャップが、かえって物語の切なさを生々しく際立たせ、聴く者の心を静かに、深く、歌の世界へと沈み込ませていった。


アンコールは、もはやお約束ともいえる錦野旦のカバー「空に太陽がある限り」。 「まるで打ち合わせをしたようなアンコール、ありがとうございます!」。そう軽口をたたくと、ハン・ジナは客席を隅々までラウンドしながら、ひときわ明るく歌い、会場の外へ姿を消した。
会場を出ると、まだ夏の日差しは強く、熱風が頬を撫でる。しかし、マリーグラン赤坂の扉の向こうで受け取った、ハスキーな歌声と温かな笑い、そしてシンガーソングライターとして真っ白なキャンバスのような空に、自分だけの豊かな色彩を描き始めた “白空 彩”の情熱は、いつまでも消えることのなく、涼やかに灯り続けていくことだろう。
なお、ライブは昼夜2公演行われ、夜の部ではハン・ジナのメジャーデビュー曲ほかたくさんの作品を提供している作詩家・高畠じゅん子氏の姿もあった。
2025年4月2日発売
ハン・ジナ「愛のかけら」

「愛のかけら」
作詩/白空彩 作曲/白空彩 編曲/猪股義周
c/w「そして今は」
作詩/白空彩 作曲/白空彩 編曲/猪股義周
日本クラウン CRCN-8741 ¥1,500(税込)









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