
柳ジュン、40年目の疾走が始まる。8年ぶりの単独ライブで誓った「もう逃げない」決意
2026年7月28日、東京・六本木のライブレストラン「六本木クラップス」。都会の喧騒を忘れさせるようなラグジュアリーな空間で、一人の実力派シンガーが大きな節目を刻んだ。柳ジュン。デビュー40周年という輝かしい季節の始まりを告げるステージだ。
柳は宮城県登米市出身。高校卒業後にプリンスホテルへ入社し、一度はOLの道を進んだが、幼い頃からの歌手への夢を諦めきれず、作曲家・大野鮒二氏に師事。1987年にシングル『乱/雨の女のブルース』で念願のデビューを果たした。
以来、キャリアを積み重ね、2021年からは東京・下北沢のカラオケLIVEステージ「まほろば」を拠点とするMIYABIプロダクションに所属。現在は「まほろば」から新たな歌の風を精力的に送り続けている。


そんな彼女にとって、この日のステージは特別な意味を持っていた。単独ライブの開催は、錦糸町のホテルでのディナーショー以来、じつに8年ぶり。コロナ禍という空白期間もあり、柳自身「本当にお客さんが来てくださるのか」という大きな不安を抱えていたという。しかし、所属するMIYABIプロダクションの安田雅仁社長の力強い後押しもあり、開催を決意。蓋を開けてみれば、チケットは早々に完売。会場は彼女の帰還を待ちわびたファンの熱気で隙間なく埋め尽くされていた。
純白のドレスに込めた、不退転の覚悟
会場の照明がゆっくりと落ち、柳が静かにステージへ。一筋の光が彼女を照らし出すと、そこにはまばゆい純白のウェディングドレス姿があった。
オープニングは、杉本眞人氏が提供したオリジナル曲『女ですもの』。恋に生きる女性の輝きを華やかに歌い上げると、続けて同曲のカップリングとして愛され続ける『いっそうララバイ』を響かせた。

「緊張マックスでございます。開演前から震えが止まらなくて口も乾くし、どうしようかと思っていました。今日はヘアメイクさんにかわいくしていただきました。体にもファンデーションをいっぱい塗ってきてピカピカでございます。塗ってきてよかった(笑)」
お茶目なMCに笑いが起きるが、続く言葉には歌手活動を続けることの厳しさが滲んだ。
「単独ライブは8年ぶりです。コロナ禍になってまもなく下北沢に『まほろば』ができました。食えない私を助けてくださった安田社長のおかげで、今日まで生き延びてきました(苦笑)」
社長への感謝、そして「まほろば」という拠点の存在が、今の彼女を支える大きな力になっていることが伝わってきた。

続いて、杉本作品から『ベサメムーチョ』と『新橋二丁目七番地』の2曲がカバーされた。
あさみちゆきが2012年にリリースした『新橋二丁目七番地』は実話をもとにした作品。体の弱かった夫を支えながら5人の子供を育て、自らはがんと闘いながらも、都内・新橋駅前で40年間、靴磨きを続けた中村幸子さんをモデルにしている。
「中村さんは現在92歳だということです。40年と言えば、私も1987年7月21日にデビューしましたので満39年を迎え、ちょうど40年目に入ったところです。『40周年記念ライブは来年やればいいじゃない?』と皆さんに言われましたが、来年まで生きているかわかりませんし(笑)、元気なうちにと、ご無理をいって皆さんに集まっていただきました!」

涙の先にあった「逃げてはいけない」という決意
“40周年記念ライブ”の意味合いをもたせたこの日のステージ。ライブ前半はキャリアを振り返るように、オリジナル曲の中から代表曲を中心に届け、後半は新曲のほかカバー曲を含め、“美熟女シンガー”としてブルージーな楽曲たちを披露するセットリストが組まれていた。
杉本氏が作曲し、柳のキャリアのターニングポイントとなった3枚目のシングル『だから…』(1999年)、さらには美樹克彦氏が手掛け、天童よしみが歌った名曲をカバーリリースし、“美熟女シンガー”としてスポットが当たった『BAKA』を大人の女性の可愛さと凄みが同居した歌声で歌唱すると、柳の目に涙が浮かんだ。
「気をつけなきゃいけないと思いながらグッと我慢をするんですけど、どうも涙腺が緩いようです」


そして、歌やライブに対する深い思いを吐露した。
「今回のライブに向けて、改めて歌の練習をずいぶんとしました。こんなに練習したのは久しぶりです。自分の歌を何度も何度も歌うと、書いてくださった作家の方の気持ちがだんだんわかってくるんですね。自分の歌と向き合いながら、カラオケボックスでずいぶん泣きました(苦笑)。同時に、当時の思い出が蘇ってきます。その歌を歌っていた時の男とか(笑)、流行っていた歌とか。だから、こういうライブって絶対に必要なんだなと改めて感じました」

観客が集まってくれるかという不安もあって、長く単独ライブをしてこなかったが、柳は「逃げてちゃいけないんですね」と決意。これからも積極的にソロライブを開催していきたいという意志を示した。
「いろんな先輩や同期のライブに行かせていただいて、『ライブっていいな』と思いながら勇気づけられて、今日こうやってステージに立たせていただいております」
1部のラストは、2015年にリリースした京都を舞台に恋をテーマにしたフォークタッチの語り歌「さくら・恋綴り」、そして1997年の「ア・バ・ヨ」を歌唱。代表曲を中心に綴ったライブ前半を切なくも凛とした歌声で締めくくった。


▲「柳ジュン」ライブに仙台から駆けつけた奥山えいじは、GSソングを観客と楽しむと、テイチク在籍15周年記念シングルとなった最新曲「居待月(いまちづき)」を披露。なかなか会えない相手を想いながらも、心のどこかでまだ待ち続けている。そんな女性の揺れる気持ちを「居待月」になぞらえて描いた切ない恋の歌。美しくもドラマチックなメロディに乗せて、奥山が女心を歌い上げた。
95歳の母へのハッピーバースデー、そして「ついほろり」
仙台を拠点に活動する歌仲間の奥山えいじが軽妙なトークと歌でステージをつなぐと、ライブは後半へ。柳はブルーが鮮やかなマーメイド風のロングドレスに身を包み、再び観客の前に姿を現した。

2部の幕開けは、2025年8月にリリースした最新シングルから。まずはカップリングの『恋の傷』。柳が「カップリングのほうが好き、と言ってくださる方も多いんですよ」と語る通り、艶やかな世界観が会場を包む。客席には、この曲を手掛けたシンガーソングライターの新田晃也氏の姿もあった。
「今日は新田さんもいらっしゃってくださっています。途中で知ったものですから、急に緊張感が増してしまいました。いらっしゃらない方が楽だったんですけど」と笑わせる。

客席にはもう一人、大切な人がいた。故郷・宮城から駆けつけた柳の母だ。草取り中に転倒し、約1カ月の入院。もう東京へ行くのは無理かもと諦めかけていたという。
「でも、懸命にリハビリに励み、今回のライブに駆けつけてくれました。そして、その母親が7月22日に95歳になりました」
柳ジュンの呼びかけで、会場全員で「ハッピーバースデー」を大合唱。温かな祝福に包まれるなか、故郷、母を想う郷愁歌『ついほろり』が歌い出された。

都会の片隅で、ふと立ち止まった時にこぼれる孤独と、遠い故郷への想い。新田が紡いだ土の匂いと都会の孤独が混ざり合うような哀愁漂うメロディーが、柳の揺らぎのある歌声によって増幅され、聴く者の胸を突く。
サビで繰り返される〈ついほろり〉というフレーズは、単なる涙の描写ではない。それは、懸命に生きてきた女性がふと見せる心の素顔そのもの。柳ジュンの凄みは、こうした日常の機微を、圧倒的な説得力をもって描き出す表現力にあった。

熊本への祈りと、憧れの舞台で熱唱
ここからのステージは明るい雰囲気に。「お祭りマンボ」「悲しき口笛」など美空ひばりの名曲をメドレーで届けると、八代亜紀が1984年に歌い、長距離トラックドライバーから絶大な支持を得た「陸の船乗り~ロンサムロード」で盛り上げた。
しかし、華やかなステージの裏側で、柳の心にはもう一つの想いがあった。八代亜紀の故郷・熊本は “あの熊本地震”から10年が経ち、徐々に復興してきていたが、この日午後4時27分頃、熊本地方を震源とする地震に見舞われ、最大震度7を観測していた。
午後5時からスタートしたライブ時点では、詳細な被災情報はまだ入っていなかったが、バンドメンバーのひとりが熊本出身だということもあり、「熊本に大きな地震があったそうですね。大丈夫?」と、メンバーや被災地への想いを馳せながらの歌唱となった。

その後は中原理恵の『東京ララバイ』、髙橋真梨子の『OLD TIME JAZZ』、青江三奈の『BOURBON STREET BLUES』(青江の代表曲「伊勢佐木町ブルース」に英語の歌詞と本格的なジャズアレンジを施した楽曲)と、ジャジーなナンバーを畳み掛け、大人の色香を漂わせる。
「今回初めて六本木クラップスでライブをさせていただきましたが、杉本眞人先生や、40年来の友人である西城なつ美ちゃんがここのステージに立っているのを見させていただき、いつか私もこの素敵なステージに立ちたいと思っていました。今日、夢がかないました」
念願の舞台にちなみ、内藤やす子の『六本木ララバイ』や荻野目洋子の『六本木純情派』をカバーし、柳ジュンという色で都会の夜を染め上げていく。

疾走し続ける「柳ジュン」という名の特急列車
本編ラストにビートの効いた、センチメンタルなラブソング「グッバイ東京」で締めた柳は、アンコールの声援に応じてステージに戻ってくると、満席の観客に深々と頭を下げた。
ライブ冒頭、「お客さんが来てくださるか不安でした。だって、(長い付き合いのファンは)皆さん天国にいっちゃったんだもん」と悲しんでいた柳だったが、「勇気をありがとう」と観客に感謝した。
「今日は貴重な時間を割いて、私のライブに来ていただいてありがとうございました。本当に感謝申し上げます。だんだん勇気がなくなってきた今日この頃ですが、今日はまたたくさんの元気をいただきました。またちょっと頑張って歌おうかなと思っています!」


「どうか皆さん、一緒に歌うなり、叫ぶなりしてください!」
笑顔と共に歌われたアンコール曲は「~北国エクスプレス~ライラックトレイン」。1999年に柳が北海道の旭川と札幌間を結ぶ特急ライラック号のイメージソングとしてリリースした代表曲の一曲。観客も、柳の背中を押すように手拍子で盛り上げた。
ライラック号はかつて、厳しい北の大地の寒さと雪に耐え抜くために、国鉄時代に設計された781系電車から始まった。時代とともに車両は改修され、新型へと姿を変えながらも、ライラック号は今も都市のにぎわいとなだらかな田園風景の中を疾走し続けている。

その姿は、柳ジュンという一人の歌手の生き様そのものに重なる。
デビューから40年。下北沢「まほろば」という新たな拠り所を得て、コロナ禍という長い「冬」を乗り越えた柳は、満席の観客という何より心強い追い風を受けて、単独ライブを走り抜けた。
たとえ線路の先にどんな険しい景色が待っていようとも、彼女はもう、歌から逃げることはない。40周年という輝く軌道の上を、柳ジュンという名の特急列車は、明日という希望の駅に向かって、力強く、そして優雅に疾走していくことだろう。

2025年8月20日発売
柳ジュン「ついほろり」

「ついほろり」
作詩/新田晃也 作曲/新田晃也 編曲/猪股義周
c/w「恋の傷」
作詩/新田晃也 作曲/新田晃也 編曲/猪股義周
徳間ジャパンコミュニケーションズ TKCA-91639 ¥1,500(税込)
▼各種音楽配信サービス一覧
https://tjc.lnk.to/iRHAElwy





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