北岡ひろし、なつきようこ、Kenjiro

雨音と魂の旋律 ― 北岡ひろし・Kenjiro・なつきようこが浅草で紡いだ愛と祈りの物語

2026年6月25日、東京・浅草。窓の外には冷たい雨が降り続いていた。梅雨の時期とはいえ、街を静寂で包み込み、訪れる者の心に触れるような涼やかな雨。浅草ビューホテル 六区アネックスで開催されたライブは、雨の日だからこそ実現した、心の奥底に染みわたる祭典となった。

北岡ひろし、なつきようこ、Kenjiro

左からなつきようこ、北岡ひろし、Kenjiro。心に沁みる最新曲を持つ3人が同じステージに立つのは初めてだった。ライブを主催した、番組やイベント制作、音楽プロデュースなどを手掛けるスバルプランニングが「どうしてもこの3人に歌わせたかった」と企画した。

ライブのストーリーテラーを務めたのは、元・文化放送「走れ歌謡曲」パーソナリティで、現在はフリーアナウンサーとして活躍する中尾美穂だ。

中尾美穂

「演歌・歌謡曲といえば、しのぶ恋や燃える愛といった名曲が数多くありますが、今日は懐かしい故郷やあの人の面影、親子の絆など、感動や心に染みる、ハートフルな素晴らしい歌をお届けしてまいります」

中尾が開幕を告げると、スバルプランニング プレゼンツ vol.2「ハートフルソングライブ」がスタート。北岡ひろし、Kenjiro、なつきようこの3人による、それぞれの物語が連鎖する時間となった。

Kenjiro ― 不器用な男の愛情と「落花生」

デビュー18年目を迎えたKenjiroは、歌謡曲が持つ哀愁を体現するシンガーだ。デビュー曲「冬恋かなし」、「母の詩~白いカーネーション」といったオリジナル曲や山口百恵の「秋桜」をカバーした。「母の詩~白いカーネーション」は、最愛の母を亡くして10年目に歌った作品。花言葉である“私の愛は生きている”という気持ちを歌い上げた。

Kenjiro

Kenjiro

Kenjiro

そんな彼が今、もっとも大切にしている作品が最新曲「落花生~らっかせい~」だ。

「作詞の田久保真見先生がご自身のご経験を元にして、(僕が歌うために)息子目線に置き換えて作ってくださいました。作曲の杉本眞人先生も気に入ってくださり、ご自身のライブでも歌ってくださっています。大切に歌い続けていきたい一曲です」

Kenjiro

Kenjiro

亡き父が好きだった落花生をモチーフに、親への感謝と懺悔、そして郷愁を歌い上げた珠玉の望郷演歌。主人公が久しぶりに訪れた墓前で、照れくささから花ではなく、落花生と缶ビールを供える姿が描写される。

Kenjiro

ステージで歌うKenjiroは、ただひたすらに亡き父へ感謝を捧げる一人の息子そのもの。観客は彼の歌を通じて、それぞれの人生と重ね合わせていた。

なつきようこ ― 「ただ、会いたい」母へ捧ぐ祈り

「先輩方とご一緒できて、幸せに歌わせていただいております」

太陽のような笑顔のなつきようこは、両A面シングルの一曲「忘恋慕-わすれんぼ-」や、「涙そうそう」などをカバーすると、「ただ、会いたい~母へ~」を披露した。

なつきようこ

なつきようこ

なつきようこ

なつきようこ

同曲は、シンガーソングライター・西つよしが2010年にリリースした作品。”赤ちゃんポスト”をヒントに親子の絆をテーマに作られた。なつきはこの曲を気に入り、インディーズ時代からカバーしてきた。

昨年7月、日本クラウン移籍第2弾として、「忘恋慕-わすれんぼ-」と一緒に両A面として発表すると、2025年の「感動した歌ランキング」で1位を獲得した名曲だ。

なつきようこ

なつきようこ

「切ないですが、心に残る作品です。3歳の時、お母さんとデパートに行って待っていたのに、結局、母は戻ってこなかった……。そんな切なすぎる実話を元にした歌です。母を恨んだこともありましたが、大人になって子供を持つ身になり、今は『ただ、会いたい』という想いだけが残っています」

なつきようこ

彼女が歌い始めると、澄んだ歌声が会場を包み込んだ。捨て子として育ち、それでもなお母を想う重厚なテーマを、彼女はあえて淡々と、しかし一点の曇りもない透明な声で届ける。「恨むのではなく、ただ会いたい」。そのシンプルで強い祈りは、観客一人ひとりの心に深く突き刺さった。

北岡ひろし ― 熊本の少女と交わした「宿題」

1984年のデビューから43年。デビュー10年目には、小さい時から習っていた日本舞踊を自身のスタイルに取り入れ、以来、唯一無二の女形歌手として独自の地位を築いてきた北岡ひろし。デビュー20周年記念曲「竹屋の渡し」や、「無縁坂」などカバー曲を聴かせると、「宿題」を魂を込めて歌い上げた。

北岡ひろし

北岡ひろし

北岡ひろし

北岡ひろし

「宿題」は、「帰らんちゃよか」で知られるシンガーソングライター 関島秀樹の作品。関島のライブでこの歌と出会い、新曲「祇園白川宵桜」のボーナストラックに収録した。

「この歌の作詞は、熊本の小学6年生の女の子によるものです。学校で先生から『お母さんについて詩を書いてきなさい』という宿題が出されました。しかし、その宿題を与えられた良子ちゃんは、小学校1年生の時にお母様を亡くされていました。先生がなぜ、お母様を亡くした彼女にその宿題を出したのか……。それはきっと、お母様との思い出に、もう一度優しく寄り添ってほしいという願いからだったのでしょう。良子ちゃんは、一生懸命に言葉を探そうとするのですが、どうしても詩を書くことができない。そんな、揺れ動く少女の切ない心をそのまま歌にしたのが、この『宿題』なんです」

北岡ひろし、中尾美穂

「宿題」に綴られている詩の内容を北岡ひろしが説明すると、歌唱前にもかかわらず、中尾美穂は泣いてしまう。

熊本市の弓削小学校小学6年生の少女が亡き母への想いを綴った詩から生まれた歌。中村良子さんが書いた詩「宿題」は、KAB熊本朝日放送と「親を大切にする子供を育てる会」が主催する『第2回こどもの詩(ポエム)コンクール』で特別賞を受賞。時を経て、熊本県出身のシンガーソングライターに託されることになる。そして、北岡が“運命”と表現するが、偶然、この歌と出会い、歌い継いでいくことを決めた。

北岡ひろし

北岡ひろし

演奏はピアノとギター、バイオリンの3人編成。シンプルだからこそ、北岡の声が心に届いた。

「宿題」には、亡き母の思い出と共に生きる少女の強さが詰まっていた。北岡はこのライブで、皆さんと一緒に少女の想いを分かち合えたことが何よりうれしかった。

北岡の歌唱によって、少女の純粋な心と母への限りない愛情が哀愁と気品を帯びて共鳴する。北岡が歌い終えた瞬間、会場を支配したのは、単なる拍手ではなく、深い感銘からくる静かな溜息だった。

北岡ひろし

浅草の夜に3つの物語が交差した

北岡が「宿題」を歌い終えると、Kenjiroと なつきようこがステージに現れ、3人がそろった。「皆さんの温かい一心な眼差しに感銘を受けた。こんなライブなら毎月でもやりたい!」とKenjiro。なつきは「本当に楽しかったです」と微笑んだ。

北岡ひろし、なつきようこ、Kenjiro

そんな二人の感想を受け、北岡は「若い皆さんのパワーをいただいて、これからも一曲一曲を大切に歌い続けたい」と力強く結んだ。

ストーリーテラーとして、この日の物語を紡いできた中尾は、「皆様の明日以降も力強く、そして喜びの笑顔が咲き誇ることを祈っております」とライブを締め括った。浅草の夜を照らした魂の旋律は、観客の心に確かな希望として刻まれた。この日の温かな記憶は、人々の心にずっと寄り添い続けることだろう。

セットリスト
1.冬恋かなし(Kenjiro)
2.忘恋慕-わすれんぼ-(なつきようこ)
3.竹屋の渡し(北岡ひろし)
4.秋桜(Kenjiro)※
5.母の詩~白いカーネーション~(Kenjiro)
6.涙そうそう(なつきようこ)※
7.1990年(なつきようこ)※
8.人生の並木道(北岡ひろし)※
9.無縁坂(北岡ひろし)※
10.スタンド・バイ・ミー(杉本健太郎)※
11.北の停車場(杉本健太郎)
12.落花生(Kenjiro)
13.ただ、会いたい~母へ~(なつきようこ)
14.宿題(北岡ひろし)
※はカバー


杉本健太郎

次世代型ハイブリッドシンガー・杉本健太郎が響かせる、故郷への想い

ハートフルソングライブには、演歌歌手とR&B歌手のふたつの顔を持つ次世代型ハイブリッドシンガー・杉本健太郎がゲスト出演した。

秋田県大仙市出身、1986年生まれの彼は、民謡歌手の祖父と現役演歌歌手の父という音楽一家に育ったサラブレッド。19歳で演歌歌手としてデビュー後、上京してR&Bを本格的に学び、演歌とポップス、ソウルミュージックまでも自在に横断する唯一無二の歌唱スタイルを確立すると、2018年、演歌歌手”杉本健太郎”としてメジャーデビューした。

杉本健太郎

杉本健太郎

客席でライブを見ていた杉本は、司会の中尾美穂に導かれてステージに上がると、60年代のスタンダードナンバー「スタンド・バイ・ミー」、今年2月にリリースされた徳間ジャパン移籍第1弾シングル「北の停車場」を届けた。

杉本健太郎、中尾美穂

「故郷の駅のホームで見送ってくれた母の温もりは、今の僕の歌の原点です」

故郷に残した母を想う心情を綴った渾身のバラード。杉本は鍛え上げた豊かな声量と、R&Bで培った繊細なリズム感を完璧に調和させ、観客の心に新しい演歌の風を吹き込んだ。なお、前述の通り、杉本はR&B歌手 KEN(ケン)としても活動中。

杉本健太郎

関連記事一覧